そんなはずはないさ それは解ってる
25時の電話のベル 土曜日の仕事
マジカル☆VIP!
壱:HELLO
今から10年くらい前に、都会の治安が突然悪化した事件があったでしょう。
ええと、原因は、何だったかな、芳野震災で難民が増えたからだったかな。
この皇都にまで、夜盗や暴徒が大量に出没して大変だったようなのですが、
その、暴徒殲滅を、たった1人で、難無く遣り遂げたのがくだんの、
導術神兵、なんです。
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導術神兵が、療養を終えられて、数年ぶりに軍に復帰なさるらしいな。
なんでも、600名の夜盗集団とたった1人で戦って、見事勝利させた経歴をお持ちとか。
なあに、噂に尾ひれがついただけだろうさ、600対1なぞ、冗談にもならん。
都会にありがちな都市伝説の類かと思っていたが、まさか本当に存在するとはなあ。
復帰しただけで、少佐任官という話だ、何とも、お目出度いものだ。羨ましい。
何もわざわざ、貴重な休日を使ってまで聞かずとも、
その、導術新兵とか言うのの噂は、同僚や部下、上官にいたるまで、
雑談のたびに口にしていたから、最早新しいとも思えなかったが、
ここ数日、あまりに話題に上がりすぎるのが気になって、餅は餅屋、とばかりに、
街で偶然出会った、名も知らぬ導術兵に、詳しい話を聞いてみた。
皇紀567年、5月某日、日曜日。
初夏の日差しが木々の緑を輝かせ、心地よい風が、肌を撫でる、
ここ、皇都、下町の団子屋。
自分には、みたらし串(大盛り)を、
隣に座る、名も知らぬ導術少年には、よもぎ饅頭を奢って、
とりたててその、導術神兵とやらの話を聞きだすなんて、
僕も大概、物好きなもんだ。
「僕たち導術兵は、他の導術兵と通信をしたり、索敵をすることしか出来ないのですが、
導術新兵と呼ばれるお方は、敵兵を洗脳したり、心に入り込んだり、出来るのです」
「そうか、それはすごいな」
「ええ、しかも、普通の導術兵と違って、精神力も体力も桁違いなんです。
三日三晩の前線でも、能力は衰えず、敵の方が先に参ってしまう、とかで」
とにかく、僕たちの間では、憧れの的で、目指すべき軍神なんです。
まだ年端もいかぬ、たぶん入隊したての導術少年は、
あどけない笑顔で、憧憬に目を輝かせながら、僕のおごったよもぎ饅頭を齧った。
僕が自己紹介をしなかったせいか、敬語がやや簡素になっているのは、
どうやら僕を、どこぞの商家の次男坊あたりだとでも、思っているのだろうか。
生来20数年つきあってきた、この童顔は、こういうときに面倒くさい。
今更、僕が君より上官だとか、剣虎兵隊を率いてるとか、説明するのも手間だから、
噂好きな商家のぼんぼんの風をして、興味深げな相槌を繰返した。
「あのお方がご活躍なさっていた頃、僕はまだ、鼻水垂らした田舎猿だったのですが、
修身の教科書に、そのお方の武勇伝があって、正直、憧れて入隊したんです」
「へえ、それはそれは」
「もちろん教科書に載っている話ですから、多少物語り風にはなっていたのですが、
600もの悪漢共が、あのお方が手をかざしただけで、たちどころに倒れていって・・・・
本当に、かっこよかった、奇術のようだった。僕もこうなりたいと、心から願いました。
数年前にご病気をされて、しばらく療養されると聞いた時は、目の前が真っ暗になったものです」
まさかこの目で見られて、まさか同じ導術兵として報国できるなんて、これから夢のようです。
導術少年が熱っぽく語る、あのお方、が、
来週の水曜日から、復隊する事を、僕は既に知っていたが、
説明が面倒になりそうなので、あえて黙ったまま、
みたらしを串から齧り取って、適当な合いの手を続けた。
「何だか、伝説のようなお方なのだなあ、履歴は見えたが、その方の本質は見えない。
君、そのお方がどんな方なのか、人となりは、知らないのかい」
みたらしの串を、導術少年の顔めがけて、ほいほいと振ってみせて、
さも、聞きたがりのぼんぼんの風で、問い質してしてやると、
少年は、焦がれて照れたような目で、答えた。
「・・・・僕も、聞いた話しか、知らないのですが・・・・
澄んだ瞳は、人の心を、見透かして、
透き通る声は、気持ちをころりと、変えさせて、
立ち姿は美しく、まるでスタアのプロマイド、
知識教養は当たり前、音楽文学お手の物。
「・・・・とにかく、僕らじゃ到底敵わないような、雲の上の、お方なのです」
よもぎ饅頭ありがとうございました、おいしかったです、と、
礼儀正しくお辞儀をして去っていく、導術少年の、まだあどけない背中を見ながら、
何だかむやみに、腹が立ったのを、
覚えている。
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ふん、何が導術神兵だって。
聞けば聞くほど、精兵とは程遠い、まるっきり銀幕の役者じゃないか。
療養後の復隊だと言うし、どんな生っ白い腑抜け野郎が来るものか。
どうか、我が剣虎兵隊には来ないでくれ。世話をするのが世話だから。
柄にも無く、天に祈った、水曜日の、良く晴れた午後。
慣れぬ事をするもんじゃない。祈り、天に届かず。
皇都、本営第一本館の、陽の当たる廊下を、しぶしぶ歩く、
面倒な任務を押し付けられそうな、僕。
ここ最近、大きな役も無いし、目下の気がかりは、
都会にまで跋扈しだしたちんぴら共の始末と、
風邪気味で腹を下し中の、千早の、今後の容態。
それから、浅草の『キャフェー・メルク』が、夏場かき氷を出すのかどうか。
<皇国>陸軍独立探索、
剣虎兵第十一大隊第二中隊、所属、
新城 直衛。26歳。中尉。
好きなものは、甘いもの。
特に浅草『キャフェー・ミルク』のアイスクリイムは、絶品だと思う。
銀座『ショパン』のパフェーも良い。この2つは甲乙つけ難い。
和菓子なら、週末行った『広末庵』の、栗かのこかな。秋限定の美味だ。
皇都近辺の甘味に関しては、もう本でも1冊、書けるくらいになってしまった。
いつかどこぞの財閥版元が、執筆依頼をしてくれぬかと、密かに期待している。
嫌いなものは、面倒なこと。
回りくどい伝令や、伝統を墨守しすぎた構造は、非合理的すぎて嫌になる。
それから、酒の席での、もう義務である、おべんちゃら。言うのも言われるのも。
新人の教育も、できれば他に回してほしい。僕には向いてないようだ。
で、その、大嫌いな、面倒なこと、が、
これから、僕の矮小で貧弱で脆弱な肩に、のしかかって来る予定なのだ。
ああ、いやだいやだ。
「中尉、新城 直衛、入ります!」
呼び出された扉に、礼儀通り慇懃にノックをして、
深いため息と、最上級の嫌そうな顔をしつつ、
それでも朗々と、大きな声で名乗り、
扉を開いた。それまでは良かった。
扉を開けて、
驚愕した。
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皇都に置かれている、ここ陸軍本営は、
一昨年、本館と兵舎が、近代風に新築されたばかりだ。
今まで、歩けばぎしぎし言うようなボロだったのが、
最新のモダン建築で、国内外の要人を迎えるのに恥ずかしくないまでになった。
しかし、新しく綺麗になったのは良かったのだが、
とにかく本営の敷地は広い。
住み慣れた兵舎住みの者でも、たまに迷うほどに、広い。
新築された事で、その問題が更に顕著になった。
「・・・・で、新城中尉、君には、当分の案内役を任せる」
はた、と、我に返った。
あまりの驚きに、目の前の、革張りの椅子に座る上官が、
一体何を言っているのか、全く聞いていなかったが、
漸く耳と頭が、意識の範疇に戻ってきたらしい。
今日、僕は、復隊する導術神兵とやらの、案内役に任じられるために、ここに居たのだ。
「まだ階級は暫定だが、さし当たっては少佐となっている。
護衛は新任の少尉を数名、部屋付きには導術兵を1人つけた」
導術も、佐官ともなると護衛が必要なのか。
それもそのはず。導術に戦力を持つ者は少ない。
少佐くらいになると、立場的に夜道の危険もあるだろう。
それに、この導術神兵は、
「・・・・ です。よろしくお願いします」
女なのだから。
・・・・はあ!?
「し、失礼ですが!こちらのお方はどう見ても、ご婦人とお見受けします!」
たまらず、指摘してしまった(当然だろう!軍に、女!)僕に、
そうだな、どう見なくてもご婦人、そしてここは銀座の伊勢丹ではなく陸軍本営だ、と、
上官の、いつも奮わない洒落が、今日は更に奮わなかった。
「導術神兵がご婦人だというのは、なかなか知られていない事実だ。
修身の教科書に載っている挿絵も、小さすぎて顔がよく解らんからな。
しかし、こちらは間違いなく陸軍少佐、 である。
そして君は、案内役だ。解るな。
なんて事はない。
僕は、貧乏くじを引かされただけなのだ。
前代未聞の、軍に女。
しかしそれは、属するだけで勝ち戦、と名高い、導術神兵。
上としては、手放したく無い、だが、扱いかねる。
貧乏くじの行き先は、
兵隊やくざの剣虎兵と、オカルト主義の導術兵。
これで一丁上がり。
「・・・・了解、しました。拙い案内役ですがどうか、御寛恕ください。」
まだ、これが悪い夢なのか、悪い現実なのか、
判然とせず、呆然としたまま、無帽の敬礼をした。
礼をしたとき、目線が下がるので、
導術神兵が、否、導術少佐が、
こちらこそよろしくお願いします、と、答えたのを聞いたが、
一体、どんな表情で僕を見ているのかは、
見えなかった。
******
道行く人々が、外套を脱ぎ捨て、涼しげな薄着になる、
皇都、5月某日の、水曜日。
街は、混乱したままの僕を置き去りにして、
夏を、始めていく。
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〜後書きの守護者〜
保護観察処分を要求する。独房は豚小屋で全然問題ないですブヒー。泥食って生きる、豚の生き様はコレだ!
かねてからやってみたかった、守護ドリなのですが、サーチを見ても、その絶対数が非常に少ない!
まだ原作のマンガが3巻までしか発売されていないので当然かも知れませんが、今後の発展を、願う願う超願う!
豚が書いたのじゃない守護ドリが読みたい。本気読みたい。誰か書いて。新城とイチャイチャさして。OKINO-DOKU!
今回もまた、逆ハーという大好物のパターンで進行させて頂きマックス!エンジンまじがかり!猿人ここにいる!
ほんとさー、ドリ書くにあたってはいつもなんだけどさー、原作のメンズに彼女(好きな子)ができない事を、願う願う超願う!
原作でフラれちゃったらもうドリなんて書いてらんねーもんなあ。特に新城は要マークだ!あいつには雌のにおいがする!
原作がファンタジー(SF?)で、詳しい設定もまだあまり出ていないようなので、その辺はイイ感じに捏造です。ありがとうウルジャン。
文化とか芸能とかは、大正真っ盛りを意識しています。モボとかモガとかね。キャフェーとかキャバレーとかね。
大正浪漫という言葉はすごく大好きなので、ここからどんだけネチネチやってけるかってさ!まじさ!楽しみすぎんすけど実際!
さて次回。貧乏くじの王様がうっかり泥棒にバッティング!そこを漁夫の利でドエスの王子様襲来。まじ錯乱してねー?
※2006年5月6日23:40 タイトルとサブタイトルを変更、本文レイアウト修正。