かもね かもね 恋かもね
ピタリあっちゃう かもね



100%…SOかもね!

昨日の雨が嘘のように、暖かい太陽が煌々と輝く、木曜午前、12時10分前。
昼前の空腹な気だるさが、ここ、銀河帝国軍オーディン本営を、平和に包む。
ブラスター射撃訓練を終え、汗まみれのシャツのまま、
ミュラーは、自らの勤務する執務室への廊下を歩いていた。

今日の射撃の出来は、下の下。
白兵戦訓練や、艦隊戦シュミレーションと同じく、
ブラスター射撃は得意な方なのに、今日のスコアは自己記録を大きく下回った。
いつものミュラーの成績を知る同僚が、心配して声をかける程に。
おい卿、今日は腹に虫でもいるんじゃないのか。
同僚の、いまいちセンスの奮わない比喩に、苦笑して訓練室を出た。

腹に、虫。

実はミュラーも、そんな事を思わないでもないのだ。

正確には、腹でなく、心臓。
そして、虫ではなく、小鳥。

昨日の昼からミュラーは、自らの心臓に、
小さな青い小鳥でも住んでいるのではないかと、
柄にも無いが疑ってやまない。

面識の薄い大将閣下に、届け物をした昨日の昼。
大将閣下はお礼にと、ミュラーを食事に誘った。
官舎近くにある、初めて行くセンスの良いカフェ。
閣下は、さすが諜報部とでも言うべきか、会話が上手く、
ミュラーを黙らせる事無く、1時間近くの食事の間、沈黙は1秒も訪れなかった。

仕事の話は殆どせず、音楽の話、ファッションの話、映画の話、本の話。
閣下は、最近話題の、恋愛映画が見たいらしい。
閣下は、昔から人気の、5人組アイドルグループが好きらしい。
閣下は、ベストセラーの本を、2度読んで2度とも泣いたらしい。

閣下には、恋人はいないらしい。

1時間の食事で、閣下に関してかなり多くの情報を得た。

だが、不思議なことに、食事の味を何も覚えていないのだ。
食べたのはパスタだった、飲んだのはコーヒーだった。
そこまではしっかり覚えている。しかしその味を思い出そうとすると、

ストローでアイスティーを飲む、
薄いグロスに彩られた、唇だけを思い出す。




「・・・・何を考えているんだ!私は!」

廊下を歩きながら大きめの声で独白してしまったので、
すれ違う者々が、敬礼しざまに驚いて目を剥いた。
本当に、何を考えているんだ。ミュラーは反省する。

執務室に帰ると、同僚や上官、部下たちはすでに午前の執務を終え、
昼食のために、外に出る者は上着を着込み、食堂へ行く者は書類を片付けていた。
ミュラーはシャワーを浴びる暇も無かったことを思い出したが、
誰に会うわけでもないし、汗にまみれたシャツのまま、上着を手に持った。

こんな不安定な気分では、午後の執務に差し支えようか。

気分転換のために、
ミュラーは外に出る事を決めた。




この気分転換が、ミュラーの胸の小鳥を、喜ばせる結果になろうとは。




正面玄関で、出会ってしまったのだ。
胸の小鳥の、生みの親に。




「あ!ミュラーさん!こんにちは、昨日ぶりですね」

春の日差しに、その銀糸のような髪を輝かせ、
ガラス球のような銀色の瞳が、ミュラーの瞳と交わった。
諜報局副総監、・フォン・大将閣下は、
下級の者は上級の者より早く挨拶をしないと無礼にあたる、という軍儀を、完璧に無視し、
子供のように純粋な笑顔を振りまいて、ミュラーに声をかけた。

閣下!き、昨日ぶりであります!」

放った自分の言葉が、どうにも的を得ていないことは、自分でもよく解った。
だが、落ち着いて気の効いた言葉を返すことが、出来なかったのだ。
胸の小鳥が、体中を羽ばたいて。

「ミュラーさんも、外へお食事に?こんなに天気が良いですもんね」

「はい、ちょっと、気分転換に、」

そこまで言って、ミュラーは思い出した。

自分は今、汗まみれのシャツを着ている。
シャワーも浴びていない、香りにも気を使っていない、
メットのアンダーを外してから鏡も見ていないから、髪も乱れている気がする。

「か、閣下!今は小官に近づかないでいただけますか!?」

「は?」

銀の瞳が、疑問の色を湛える。全く、何を言っているんだ自分は。
でもここまで言ってしまったら、次の言葉を紡がないわけにもいかない。

「い、いえ、その・・・・さっき射撃訓練を受けてから、
 シャワーを、浴びていないもので・・・・その、小官は、汗臭いかと・・・・」

一瞬の間を置いて。

目の前の大将閣下は、噴き出して、笑った。

「・・・・っは!あはは!そ、そんなの全然気にしないよ!」

「そ、そうでありますか?」

おかしさに、彼女は一瞬、敬語を忘れたのだろう。
自分に向けられて発せられた、一言だけの気安い言葉に、
胸の小鳥が、なぜか一段と活発さを増した。

「それに・・・・気にされていては、私も躊躇ってしまいます」

「・・・・?何をでありますか?」




「せっかく会ったんですし、今日のお昼をご一緒していただけないかと。
 二日続きになってしまいますけど、いかがですか?」




胸の小鳥が、飛び暴れる。それも、心臓の近くを。




「・・・・はい、ぜひ」




胸の小鳥はミュラーの口と、声帯をも軽々と蹂躙し、
ミュラーが考える間も無く、その御意に沿う返答を吐き出させた。
気付いたときにはもう遅かった。
銀髪の上官が、すでに外に出、どこに行きましょうかと笑ったからだった。

昨日とはまた別の、小さな喫茶店。
今度は、何を頼んだのかすら、曖昧になった。

話題は、昨日の話を発展させる。
閣下の、見たいと言っていた恋愛映画には好きな役者が出る。
閣下が、好きだと言っていたアイドルグループは新しい曲を出した。
閣下は、ベストセラーは読み終え、おもしろい本を探している。
昨日と話題が繋がる事が、なぜかミュラーには嬉しく感じた。
それはなぜだかは解らない。

胸の小鳥が、ミュラーを笑顔にするようにでも仕向けているのだろうか。

そして、食後に運ばれてきたアイスティーとコーヒーが、
残り半分くらいになったところで、話題が、不思議な方向へ転じた。

「・・・・ミュラーさん、変なこと、聞いても良いですか?」

「?小官にお答えできるものであれば、何なりと」

「あの、全然、気にしないでほしいんですけど・・・・




 男の人って・・・・好きじゃない子でも、き、キスとかしちゃうものですか?」




「・・・・は!?や、いえ、小官も、男では、ありますが・・・・それは、一体、」

銀色の睫毛を伏せた視線は、少し汗をかいたアイスティーのグラスへと注がれている。
睫毛と同じ銀色の長い髪が、頬にかかって、その表情は読みにくい。

「いえ、本当に、ちょっと聞いてみたかっただけなんです」

意図の判らぬ質問。
だが、答えなければと、否、答えたいと、
ミュラーは思った。

「・・・・男、と一括りにはできないかと、小官個人は存じます」

「一括り、ですか?」

「はい、・・・・想わぬ人と何でも出きる男も、世の中にはたくさんいるでしょうが、
 逆に想う人とでなければ、何もしたくない男も、きっといるかと」

銀色の視線が、ミュラーの瞳に戻ってきた。




胸の小鳥を、射抜かれたかと、思った。




「・・・・そっか、そうですよね!」

「はい。恐縮です、月並みな答えしかお返しできず」

「いいえ、全く!・・・・何か、すっきりできました、ありがとうございます」

「・・・・差し出がましく申し訳ありませんが、閣下は、何かお悩みを?」

「いえ、そういう訳では、無いんです、たぶん・・・・」

また一瞬、暗くなりかけた銀の瞳が、
無理矢理の笑顔を作って、ミュラーの砂色の瞳に合わさる。
そして、昨日とはまた少し異なった、薄い色に彩られた唇が、
本日の昼休みの、最後の言葉を放った。




「ありがとうございます、今日お会いできて良かった。楽になれました」




胸の小鳥が、体中を一気に滑空した。
ミュラーの心臓を、鷲掴みにして。




官舎の執務室に戻ったとき、ミュラーは自覚せざるを得なくなっていた。

確実にこれは、午後の執務に差し支えるだろう、
心臓の近くで、小鳥が大きく旋回している。
銀色の瞳と、銀色の髪、薄く彩られた唇の記憶で、
ミュラーの頭の中を掻き乱しながら。

これは、小鳥なんかじゃない。




これは、恋だ。



_________




の頭は、ミュラーの発言をもってしても、
安定を取り戻すことに困難を極めていた。
好きじゃなくてもキスできる男、好きじゃないとキスしない男。
男と一括りにしなくて良い事はわかった。
でも、それならなぜキルヒアイスは、あんな暴挙に出たのか。
想ってはいないが、キスをしたかっただけか、
それともまさか、自分の事を。

まさか!

ずっと何年も、ラインハルトと同じ、仲の良い友であったのに!




思考の堂々巡りは、業務を終え、夜になっても、
を解放することは無かった。

午後10時を少し過ぎて、がホテルに戻ったとき。
テーブルに置いてあったヴィジホンが、
画像通信の着信を鳴らした。
相手がキルヒアイスであったらどうしよう。どんな顔をすれば良い。
恐る恐る、発信者を確認したの不安は、

意外な人物の登場で報われた。




『・・・・失礼、お忙しい時間でありましたか?』




小さな長方形のモニタに映る、黒と青の、不思議な輝き。
オスカー・フォン・ロイエンタールだった。

「あ、いいえ、大丈夫です、今帰ってきたところですから」

モニタに映るロイエンタールの襟元は、
いつも見る軍服のそれでは無く、私服であるらしい白のシャツだった。
下の者が上官に通信をする場合公用なら当然、私用でもだいたいは、
軍服を着て通信をするのが礼儀であり、
この様子は、僭越ではあるがロイエンタールの、上官への歩み寄りを示している。
そして今回の通信が、私用である事を、に気付かせた。

『この刻限までご執務を?ご多忙、察します』

軍服のままのを見ての発言だった。

「いえ、今日は外で夕食をとってきましたので、終業は通常ですよ」

『そうでありましたか・・・・では閣下はよほど、小官に嫉妬を強いたいと見える』

黒と青の瞳が、残念そうな、困ったような笑顔を作る。

「え、あの、どういう、事でしょうか?」

『上官への嫉妬で身を焦がして、労災が降りるならお願いしたいですね。
 ・・・・小官が再三、お誘い申し上げているのに、閣下はなかなか。つれない。』

そしての脳裏に、ある記憶が蘇った。
月曜の昼には口頭で、
そしてその夜にはメールメッセージで。

そういえばデートに誘われていたのだ!

「あ、あの、ごめんなさい!いろいろあって、返信が先送りになっちゃって!」

あわてて弁明するに、
ロイエンタールは策士染みた笑顔を送る。

「それに・・・・正直、社交辞令かと思っていた所もあって・・・・」

あの真昼間に、あそこまで上手い口を使われて、
どこまで本気ととって良いのか判らなかった、
とは、さすがに口には出さないが。

『・・・・戦艦を指揮する者としては、通信の無返信は罪が重いと言いたいところですが・・・・』

「つい、うっかりしていて・・・・他意は無かったんですが」

謝るに、ロイエンタールは笑顔を返した。
青と黒の光が、一瞬だけ暖かく灯ったように見えた。




『では、償いをお願いできますか?』

「え?」




『次の休暇で、小官に閣下の護衛という大命を任じる、償いを。
 閣下の運転手と、それから夕食の陪席も。それで、小官の嫉妬も少しは癒えましょう』

あまりにもっともらしく言うので、は不覚にも笑ってしまった。
そして改めて思う、ロイエンタールは本当に口が上手い。
メールの忘却に矮小していたを、下から持ち上げるような言葉使いで、笑顔にさせる。

度重なるアクシデントと、キルヒアイスの一件も加わって、
は、多少投げやりになっていたのかもしれない。

デートが何だ!
単なる社交ではないか!
結果はどうなってもかまわない!

もうどうにでもなれ!

「では・・・・次の休暇のエスコートは、ロイエンタール准将を任じます」

『御意に。大命を頂き光栄の極みであります。
 閣下の御心に背くこと無く、微力をもって命を果たしてご覧に入れます』

芝居染みた返答が、をまた笑顔にさせた。
そして先刻まで曇って落ち込んでいたの心を、少しずつ暖かく、晴らしてゆく。

その後ロイエンタールは、の多忙を気遣う言葉と、
月曜の昼に話していた興味深い本の情報を伝えてのち、

最後に、またもの心を羽根で撫でるかのような発言をした。

『・・・・憎きかな、閣下は、業が深くていらっしゃる。
 先刻からもう一つ、罪が増えているのですが、お気づきではございませんか?』

「え、いえ・・・・わたし、また何かしてしまった?」




『以前お話頂いたときは、敬称無く、心安く話しかけて下さったのに、今は多少、堅い。
 これは閣下の御心が、小官から遠のいたと考えても・・・・宜しいのですかな?』




意味ありげな一言を捨て台詞に、
が返答する間も無く、通信は切れた。

暗くなったモニタの前に、未だ軍服のままのが残される。
言葉の応酬には、それが本職のようなものだし、慣れているはずの諜報局服総監。

頬が、火照るのを禁じえなかった。




次に小鳥は、誰の胸に巣を作るのか。











〜銀河後書き伝説〜裏目編〜

やりすぎたー!!!前回の赤毛のダークホースを牽制しようと、ちょっとアクセル踏んだら、
まっさか奴らがここまで一人歩きでギアハイトップ入るとは思わなんだ!
相性も悪かったね!ヤリチンロイとパシリミュラー、温度差ありすぎるもんね!
そりゃ二人同時に出したら相乗効果ではしゃぎもしますわ!やっべ、策士、策に溺れた

ミュラーがこんなにイイ仕事してくれるとは思いもよりませんでした。
ちょっとドキ、これは、恋?みたいな甘酸っぱいコバルト文庫でシメようと画策してたのに。
まっさかここまで自分を追い詰めてくれるとは!やりおるな!敵ながら、天晴れ!もういいや。
よく考えたらこの時間軸では、ミュラー20代前半だけど、
ヒロインの年齢相応の、高校生ぽい恋愛をかましてくれそうなのって一番彼かも。
当初ハルトを甘酸っぱい高校生恋愛で売ってこうと思ってたんだけどね、
案の定、一人歩き。もう高校生じゃないよ。中坊じゃ!2チャンで言うとこの厨房じゃ!討ち死
プロデュースの方向間違うと売れなくなんだよ。ほら、鈴木あみが吉本とかさ。オチんだよ。

ロイはね、もう諦めた。好きに歩いていただきます。もういいや。うん。
全国のフロイラインがキャーキャー言うの解った気がする。奴ね、やばい。危ない。落とされる。
何だかんだ言って自他共に認める銀英の加藤鷹だもんね。そりゃ落ちるわ。オンデマンドもびっくりだ。

次回は出る杭を打つ企画。あ、その前にもうちょっと撹乱すっかな。