友達の
エリアから
はみ出した
君の青いハイヒール。



Romanticが止まらない


肌寒いが、春の夜月が明るい、月曜の21時。
"海鷲"と名のついた、暇な青年提督たちの溜まり場は、
仕事帰りに立ち寄ったらしい黒い軍服の群れで今日も賑わっていた。

品の良い間接照明で、薄暗い店内の一角に、
砂色、焼けた銅色、蜂蜜色、黒色など、色とりどりの頭髪の色、
いつものメンバーが陣取り、杯を交わしていた。

「あれ、今日はビッテンフェルト提督はいらっしゃいませんね?」

「あいつは書類残業だろうよ、いつも溜め放題溜めている。自業自得だな」

「副官のオイゲン氏も、今日あたり胃痛をバネにキレたんじゃないか?」

「静かに飲めて良い」

黒色の髪と、青、黒の瞳を持つロイエンタールが、
この店にあるのは珍しい静寂を肴に、タンブラーの琥珀の液体を飲み干す。
だが、その美味な肴は、すぐに噂の人物の登場で、見事にかき消されてしまった。
押し開きの木製ドアが、いつもの事だがけたたましい音を立てて、
明るいオレンジの髪を持つ、賑やかな青年提督が参上した。

「やっと終わった!やはり書類は溜め込むものでは無いな!」

たった今、静けさを賞賛したところだったのに。
ロイエンタールの優雅な晩酌は、来て30分も経たぬうちに略奪されてしまった。

「やっぱり残務でしたか!だから毎日あれほど言っていましたのに!」

「少しはオイゲンの胃の健康も考えてやれ。そろそろ労災が降りるぞ」

「俺やロイエンタールのように、毎日のノルマをきちんとこなせば良いのだ、不精だな」

長方形の卓を囲むように座る形の席に、急遽一人分の場所を作る。
ロイエンタールは自ら一番端の位置に移動して、深いため息を吐いた。
その隣でワーレンが、同情の表情で、ロイエンタールのために灰皿を引き寄せた。

蜂蜜色の髪を持つミッターマイヤーが、
ロックグラスにビッテンフェルト分の酒を注ぎ、嬉々として問い詰める。

「で、どうだ、今日は何か進展があったか?卿と銀色のミューズとの関係は!」

「恐れながらミッターマイヤー閣下。
 ビッテンフェルト提督の恋路に進展を望むのは、いささか無謀であると私は考えますが」

「どこまで失敬なやつなんだ卿は!」

「では少しは進展したのか?速攻せねば猛将の名が廃るぞ?」

興味も色濃いミッターマイヤーが乾杯も早々にビッテンフェルトをけしかける。

「当然だ!」

ビッテンフェルトは注がれた酒の1杯目を一気に飲み干し、
今日の昼休みにおこした行動の一連を、面々に話して聞かせた。
ミッターマイヤーは興味深そうに、ミュラーは仕方なく、ワーレンは面倒臭そうに、
それぞれ聞き入る。
しかしロイエンタールだけが、その不思議な輝きを持つ両目に、不敵な光を灯していた。

ビッテンフェルトの言葉が終わるや否や、ミッターマイヤーは、

「・・・・やはり、卿は!馬・鹿・だ!」

本日のビッテンフェルトの戦術に、落第点を出し、激しく反省を促した。

「そこまで持っていっておいて、何故その女性に繋がるように仕向けない!
 特攻でも、無茶苦茶にやれば良いと言うものでは無いのだぞ!
 もう猛将とは呼べぬ!単なる猪突だ、卿は!」

「良く言った。皆それに賛成だ」

斜向いからワーレンの合いの手が入る。
辛辣な同輩提督らの批判に、たまりかねたミュラーが助け舟を出した。

「まあまあ、提督にしては勲章物の武勲ではありませんか。
 正直言って、私はここまで期待しておりませんでいたよ?」

助け舟のつもりが、逆に批判を肯定することになってしまったとしても。

「次は彼女の連絡先でも何でも、絶対に聞き出せよ!
 恋とは多少の武勲を挙げたからと言って、完勝せねば無意味なのだからな!
 油断は禁物だ!いつどこで、思わぬ伏兵が潜んでるか知れぬぞ!」

一瞬の間を置いて、ミッターマイヤーのその言葉に、
一番離れた席に座っていたロイエンタールが、グラスを揺らしてくすりと笑った。




「・・・・伏兵か。確かに正しいやも知れんな」




声自体は小さかった。
だが、見過ごすにはあまりに剣呑なその一言に、全員の目がロイエンタールを注目した。

「・・・・どういう意味だ?ロイエンタール。お前からそういう一言が出ると、気味が悪いぞ」

青と黒の不思議な瞳が、更に怪しく影る。

「そのままの意味だ。伏兵には注意しろとな。
 戦争でも謀略でも女でも、敵と言うのは常に存在するのだ。
 ・・・・それも、意外に近くにな」

全員の心に、ある1つの、冷たい予感が生まれた。

浮名も名誉と名高い、屈指の漁色家。
彼が今までにもぎ取った華は、恋人がいようが夫がいようが関係無く、
その恐るべき辣腕に、惨敗を帰した男は、両手両足の数では単位にすらならない。
幸か不幸か、偶然にも、ここに集う彼らの中には、今日までその強靭な手腕に、
愛する華を奪われた男はいなかったが。

記念すべきその第一号に、まさかビッテンフェルトの名が記されてしまうのであろうか。




「・・・・まさか、ロイエンタール、卿、」




両目に、激しい不穏と不審を燃え上がらせたビッテンフェルトが、
思わずソファから立ち上がる。

その対面でロイエンタールは、口元だけで笑った。




「・・・・ちょっと食事とドライブをしたまでさ」




ビッテンフェルトが拳を握りしめるのと、
それを止めるためミュラーが立ち上がったのは、同時だった。

だが、さすがに色恋沙汰で殴りかかるのは美しくないという感覚を、
ビッテンフェルトが持ち合わせており、寸での所で、その拳が跳ね上がる事は無かった。
隣でミュラーが全身全霊で、爆発寸前のビッテンフェルトを鎮圧する。

ミュラーが、まだ拳を握ったままのビッテンフェルトを、ソファに落ち着かせる。
この店で喧嘩沙汰は茶飯事だが、今回はそれを止める役の者が有能だった。

全員が深呼吸できる位の間を置いて、
一番最初に、考えながら口を開いたのは、ミッターマイヤーだった。

「・・・・ロイエンタール、俺は今までお前の漁色を、嗜めてはきたが・・・・
 今回ばかりは、やりすぎなんじゃないか」

思わぬところで強敵を持ってしまったビッテンフェルトに同情してか、ワーレンも割って入る。

「卿はいつも勝ってばかりだ、少しは同輩に白星を譲る、気概と優しさは無いのか。
 こちらの猪突は久々の本気らしいからな。一夜の遊びのつもりなら手を引け」

一触即発しかねないビッテンフェルトを、不安げに見やりながら、
ミュラーだけは何も言えず、空になったビッテンフェルトのグラスに酒を注ぎ足した。
握った拳を解いて、ビッテンフェルトがそれを受け取る。
暇で若い仕官たちが、酔うために飲む強い酒だ。
本来なら、ショットグラスでもいい所を、彼らはいつもタンブラーに近い器で飲む。

なみなみと注がれたそれを、煽るように一気に飲み干すと、
先ほどの烈火も幾分落ち着いた様子で、ビッテンフェルトはロイエンタールに向き合った。

「いや、すまないロイエンタール・・・・俺のほうが大人気ないな。
 ・・・・彼女は俺の所有物では無いのに」

一時の鎮静を不安に思ったミュラーが、さらに酒を注ぎ足した。
だが注がれてすぐさま、またグラスは一気に空になる。

「卿にも俺にも、権利は平等にあるし、出発地点は一緒だ。
 こうなったら正々堂々、共に戦おうじゃないか!」

半ば無理をしたような明るい声を発して、
ビッテンフェルトはその勇猛果敢な猛将らしい笑顔を、ロイエンタールに向けた。

他人を気にして何になる!嫉妬や妬みなど俺には必要無い!
敵が居てこそ、士気も上がるというものではないか!

この場合、経験値的に兎がライオンに挑むようなものであったとしても。

言葉を受けて、ロイエンタールが応じる。

「・・・・ああ、正々堂々・・・・お互いに善戦を試みようか」

その応答の、端々に隠れた含みに、
彼の親友であるミッターマイヤーだけが気付いて、
再開された酒宴の間中、どこか納得のいかない顔を続けていた。




"海鷲"の夜は更ける。



_________




実は、優秀で緻密な伏兵は、この時既に、戦いを始めていたのだ。




仕事も終わりホテルの部屋に戻ったは、
今日1日部屋に置き忘れてしまっていた携帯ヴィジホンに、
メールメッセージが残されていたのを発見した。

未開封新着が4件。
フェザーンのファッションブランドからの「春セールのお知らせ」、
直属の参謀長からの「明日の執務に関しての確認事項」、
キルヒアイスからの「おはようございます。二日酔いにはなってませんか?」。

そして、最後の1件は見知らぬ番号から「無題」のメッセージだった。

ダイレクトメールやランダムに送られてくる広告であったなら、
何かしら題名が入っていたり、わざとらしい挨拶があったりするものなのに、無題の1件。
発信元の番号も適当な乱数では無く、"r.v.oscer・・・・"と、個人名らしいもので、
末尾の母数が、帝国軍に所属するものに配布される公用のそれと同じであったから、
は、不審に思いながらも、メッセージオープンのボタンを押した。

それは、意外な人物からのメッセージだった。




to:大将閣下

from:オスカー・フォン・ロイエンタール

title:無題

突然の私用通信を御寛恕下さい。

本日は小官ごときに、
栄えある閣下のお食事のエスコートという大役をお与えて下さりまして、
恐縮千万の極みにございます。

帰路の車内で交わした、
映画の話を覚えておいででいらっしゃいますか?
見に行きたいと、閣下はおっしゃっておりました。

その際は是非もう一度、その御役は私ロイエンタールにお申し付け下さい。
不肖小官ではございますが微力を尽くして、
全身全霊、閣下を、お守り申し上げます。

r.v.oscer




シンプルだが品の良いテンプレートに、
インク文字の字体で連なるアルファベット。
も、17年生きてきて、この意味が解らない子供でもない。

これは、いわゆる。

デートの誘いなのだろうか。




「・・・・わけが、わからない」




最近の巡り合わせのわけが。

フェザーンから帰ってきて、何か事件や揉め事のウィルスでも貰ってきたのだろうか。

仕事始めの多忙に、心身ともに疲労していたこともあって、
は、返信を後回しにし、シャワーを浴びにバスルームへよろめき歩いて行った。

ローズのバスオイルを注ぎ、
新しく買って来た低刺激のボディソープを泡立てる。
バスオイルはホテル備え付けのアメニティだが、香りも質もこだわりを感じる。
ただ、ボディスポンジだけはどうしても肌に合わないようで、
は頭の中で、次の休暇の買い物リストにこれを加えた。

思いがけず長風呂をしてしまったようで、
髪を乾かした時には、もう時計は後1時間で真夜中を指していた。

思った以上に、疲れが溜まっているらしい。
ヴィジホンを起動してメッセージを返信する気力も無く、はベッドに倒れこんだ。
明日は通常出勤。書類決済くらいしか無いだろうから、今日よりは楽かな。
今日は本も読まずに寝よう。寝れば少しは回復するかも知れない。
身体も、心も、この妙なウィルスも。

その髪と同じく、透き通る銀色の睫毛を、ゆっくりと伏せたとき。

画像通信の音楽を奏でて、
ヴィジホンが高らか鳴った。

「・・・・もう!何て間の悪い!」




だが、言ってふと思い付く。
このタイミングの悪さ。
相手はまさか。




『・・・・すまない、寝ていたか?』




モニタをオンにすると、豪奢な金髪、透き通る氷蒼色の瞳の持ち主が、
申し訳ない感情と、少しだけ嬉しい感情の綯い交ぜになった不思議な表情で、映った。

「やっぱりラインハルトか」

の顔は意識せずに笑顔になる。

『やっぱりとは何だ?おまえには超能力でもあると言いたいのか?』

必要以上に尊大な態度。
だが長年に渡る付き合いで、これは彼の照れ隠しという事を、は知っている。

「まあね、あるんだよ、ラインハルトとのヴィジホンにしか効かないけど」

ラインハルトが、画面上でも解る程の腑に落ちない顔をする。

『な、何だそれは?・・・・いや、こんなことを言うために通信したんじゃない・・・・』

ラインハルトは悩みと戸惑いを瞳に映し、視線を泳がせる。
は、彼が何を言うために通信をしてきたのか、何となく解っているから。
あえて発言を控えた。

しばしの沈黙。

『・・・・、金曜は、ごめん』

氷蒼色の視線は、今度こそ銀色の視線に重なった。
姉の前での子供のような彼でなく、赤毛の友の前での少年のような彼でもなく、
真摯さと切実さを併せ持った、大人の男の顔をした彼を、は初めて目にし、戸惑う。

あの夜、の手首を掴んだ大きな掌を、思い出した。男の人だったんだ。

が久々に帰って来て・・・・おれもどうかしてたんだ。
 今まで以外にあんな事をしたことは無いし、これからも、もう絶対にしない。

だから。

これからもずっと、




友達でいてくれないか。




月が陰って、薄暗い部屋に小さなモニタだけが浮かび上がった。
その小さな長方形には、18歳の、

青年が映っていた。




「・・・・うん、大丈夫、もう全然気にしてないよ。
 何か・・・・気まずかったんだ、何しゃべっていいのかわかんなくなっちゃって」

『・・・・同じだな。実は、おれもそうだったんだ』

金と銀のよく似た二人は、よく似た表情で笑い合った。

『本当はずっと会いたかったから、今日の昼も三人一緒に行きたかったんだ。
 でも結局誘えなくて・・・・だ!誘いに来ればいいのに!』

「あ、またそうやって!ご招待は紳士の役目でしょ!」

が素晴らしい淑女なら、こちらも紳士でいてやっても良いがな!』

「・・・・それもそうか」

『認めるのか』

「認めざるを得ないよ、軍の中枢で欺瞞と謀略にまみれた淑女がいますか」

『はは!いないな!』

ラインハルトが、失態を陳謝する通信をかける紳士もいないしなと、
少し自嘲気味に言ったので、今度はが噴き出した。
二人はお互いに17歳だし、お互いに貴族であり、
軍に入らず平和に暮らす同じ立場の者たちであれば、
華々しい社交界に開花し、紳士淑女と呼ばれてもおかしくはない。

「でも今日の昼は、誘いに来なくて正解だったんだよ、別の方とご一緒したんだ」

ラインハルトの眉間に、本人の意識外で深く鋭い皺が刻まれ、

『・・・・何だそいつは?!ああ、もう、は・・・・少しは自分の外見が目立つ事を認めろ!
 軍の中にだって、不貞な輩がたくさんいるんだからな!』

年頃の娘を持つ、頑固な父親のような発言をした。

「どういう意味!似たような顔のくせに!・・・・大丈夫よ、ちゃんとした人だったし」

『この前だって、フェザーンで交際を申し込まれたと言っていただろう!
 ・・・・おれもキルヒアイスも、本当に、心配しているんだ』

心配という言葉一つでは表せない感情が、心の中で渦巻いていることに、
ラインハルト本人は気付いていない。

が自分たち以外の誰かと、食事をしたり、
が自分たち以外の誰かに、楽しそうに笑いかけたり、
が自分、以外の誰かに、例えばキスをされたり。
そういうことを考えたときに、心に吹き荒れるその感情を、
心配、以外の言葉で伝える力を、ラインハルトは持っていないのだ。

ラインハルトの心底心配している顔を見て、はそれ以上の説明を伏せた。
まさかデートの誘いが来たなどと言えば、確実に烈火のごとく怒るであろう。
好きでもない相手とデートなど!男には下心というのがあるんだぞ!
言う言葉まで想像できた。

「大丈夫だよ、全然、そんなんじゃないから・・・・」

焦り気味で弁解したココの表情に、果たしてラインハルトは気付いただろうか。

お互いに明日も仕事があるから、その後少しだけ会話をして通信を切った。
切り際におやすみと言ったラインハルトの顔は、




少しだけ、寂しそうだった。




ベッドに潜り込むとすぐに眠気はやってきた。
色とりどりの金魚が、青空を泳ぐ夢を見た。

寝覚めは、最高だった。










〜銀河後書き伝説〜懐メロ編〜

ハイ、タイトルのネタが無くなってきました。モロバレですね、ハイ。C-C-Bて。もう出オチだ。
え?管理人今年21歳だけど?え?何ででそんな醜い物見るような目つき?マジだよ?ねずみ年だってば。

当て馬に出したロイがびっくりするほどイイ仕事してくれて困っています。さすが銀英の加藤鷹
今の時点でキャラクター濃度どろソースな皆様が一人歩きし放題してくれていますが、
逆ハーの華はモテるところにあり。収集つかなくなっても、まだまだモテてモテてRomanticが止まりません

つーかもうヴィジホン完璧携帯になった。メールし放題。パケット定額。家族割り。え?これドコモだけですか?