観用青年B 〜23歳 モデルの場合〜

2:のらしろ上等兵





俺の名前は、滝 栄一郎。

兵学校をクラスヘッドで卒業し、故郷に錦を飾る、恩賜の短剣組。
趣味は将棋と俳句と柔道、どれも近年では負け知らずの腕前。
特技はフランス語と水泳、まあこれは、特技と言うより、できて当然の教養だな。
好きな歌は「軍艦行進曲」と「海行かば」、
好きな食べ物は、ライスカレーと豆あんぱん。
皇国の明日を担う、押しも押されぬ、帝国海軍、少尉候補生。

と、言うのが、俺の設定だった。

はずだった。




同じメーカーで製造され、似たり寄ったりな設定のクラスたちは、
揃いの白い軍服を着込んで、黒光りする軍刀を腰に提げて、
サバイバルゲームが趣味の中年男性の元へ、共に趣味を楽しめる仲間として、
戦争を知る世代の年配男性の元へ、介護と家事役兼、話の解る友人として、
大戦モノの映画が好きな青年男性の元へ、感想を語り合える話し相手として、
それぞれに旅立って行った。

一番最後まで工場に残った俺も、いつかは旅立つ日が来る。
できれば、戦時中に海軍将校だったとか、そんなマスターの元が良い。
仕事の合間に、碁や将棋を打ちながら、当時について話したり、軍歌を歌うのだ。
スリープの間、そんな希望を、淡いながらも期待していた。

期待していた、のに。




目を開いて、まず、目に入ったのは。

和室でも、年配の男性でも、トイガンでも、日章旗でも、無く。

長い睫毛に大きな瞳、
艶やかな髪に細い四肢、
真珠のような爪と、珊瑚のような唇。
まるで、陶器人形のような、

女、だった。




何だ!女じゃないか!
こんな事態、俺は聞いていないぞ!




******




兵学校では、少尉任官まで、女遊びは禁止、それが常識だ。
候補生の俺は、当たり前だが、女など、口を聞くのもいけない。

女、否、認めたくは無いが新しいマスターが、
未だ俺の左手を握っている事に気づいて、俺が慌てて振り解くと、
あからさまに不機嫌な顔をされた。
兵学校の常識すら知らないと見える。まったく頭が痛い。

マスターにあれこれ注文をつけるのは、俺とて本意では無い。
しかし、マスターが女の場合だった対応を、俺は知らないのだ。
デフォルトは、男。しかも、海軍や兵学校に、詳しい者限定。
これではオプションの軍歌や軍人将棋、○○大佐など肩書きで呼ぶ呼び方も、出来ない。

女が、突然手を振り解いた俺に、やはり怪訝そうな顔をしたので、
不本意ながら俺は、それについての説明を付け加えた。
全く馬鹿げている。
本当なら、立ち上がって敬礼し、少尉候補生、滝栄一郎であります、と、
格好の良い挨拶だって初期設定されていたのに。

「少尉任官までは、女人禁制なのだ!悪いが貴様の部下にはなれん!」

せっかくだが他をあたってくれ、と、
情けないが、俺が女と目を合わせないようにしながらそう言うと。




「え、ショーイニンカンって、何?」




この女、絶対、何かの病気だ。そうに決まっている。
深い、深すぎる、ため息が出た。




******




「・・・・何、それ、酷い、」

デフォルトのマスターが男性である事、
俺の立場では女との交流が禁じられている事、
それとなく、できれば終了して他に転売して欲しい事。

俺が、事のあらましを、かいつまんで伝えると、
何故か女が、悲しそうな顔をしてこう言ったので、ほとほと参った。
元来、海軍の男はフェミニストなのだ。
女に悲しそうな顔をさせるなど、マナーに反しすぎている。

「いや!違う!貴様が嫌だとか、そう言う意味で言ったのでは無い!」

未だ視線は合わせぬまま、慌てて宥めたが、
女の耳には、どうやら俺の言葉は、やや歪んで届くようで。

「私、すごく売れてるわけじゃないけど、
 脚も短い、日本人だけど、そう言う断り方、無い、」

女が、見当違いなショックを受けてしまったので、
染み付いたフェミニストの教えが災いして、
つい、更に宥めるような事を、言ってしまった。

「大和女が嫌いとは言っていないでは無いか!むしろ好きだ!」




この一言で、俺の命運は尽きる。




白い、陶器人形のような顔が、ゆっくりと笑顔に変わる。
うっかり瞳を見つめてしまった、睫毛が頬に影を作っていた。
艶めいた髪が、身動きするたび、光って揺れる。
宝塚歌劇団の踊り子より、銀幕の女優より、それは。




「・・・・じゃあ、良いって、事?」




神国を守りたもう八百万の神よ。
靖国の桜となった幾多の戦友よ。
ごめんなさい。腹を斬ります。もう女などにうつつを抜かしません。
少尉候補生が聞いて呆れる、助平心で戦況を逆転されるなど。

ぼやぼやと女などに見とれているから、こんな事態になる。




それとこれとは話が別だ、と、俺は訂正を試みたが、
女が女優のような顔で、初期設定の続きをしても良いかと、
白く細い指の右手を差し出したものだから、

もう、何も言えなくなって、
前線では引き際が大切だ。
もう1度、深いため息をついてから、
躊躇いを覚えながら、左手を差し出した。




出した左手の、指先が、実は少しだけ奮えてしまった事は。
帝国海軍少尉候補生の矜持にかけて。
否、江田島健児として、もっと言えば、男として。

秘密だけれど。




******




俺の名前は、滝 栄一郎。
皇国の明日を担う、押しも押されぬ、帝国海軍、少尉候補生。

戦争を知る世代の、年配男性の部下になるはずが、
初めてのマスターは、少尉の言葉も知らぬ、陶器人形のような女。

サバイバルゲームをしたり、軍歌を歌ったり、思い出話をするはずが、
初めて与えられた任務は、明日の朝食作り。

どんなマスターの元へ行こうと、
軍人として何事も黙々と受け入れようと思ってきたが、
今回、あまりの非常事態に、うまく考えがまとまらない。




「と、ところで、貴様の事は、何と呼んだら良いのだ、」

「え?」

左手を握りながら、取扱説明書を見ていた瞳が、
急に俺に視線を移したものだから、驚いて目を逸らした。
この大きな瞳、一介の少尉候補生には、荷が重過ぎる。

「いや、俺には呼び方にも設定があるのだ、その、92ページに、」

誰それ大佐だとか、誰それ軍曹だとか、誰それ閣下だとか、
各々のマスターの好きなように、呼び方の設定ができるのだが、
視線の猛攻に制圧されて、舌がうまく回らなかったので、
丁度良く、女が持っていた取扱説明書に、援軍を頼んでしまった。

女は92ページを開く。

「・・・・肩書き、何?普通で良いんだけど、」

普通とは何だ。階級がはっきりせねば、話し方も決まらない。

「じゃあ、名前で、呼んで下さい、って」

「な・・・・そんな、まだ結婚もしていないのに!下の名でなど、呼べるか!」




初起動からフタ時間。マルヒト、ヨンロク。
俺の初陣は、

前途多難だ。




    




沈黙の変態

右40!距離200にて害虫捕捉!通報する事をおすすめする!脳病院のエントランスが刻一刻と迫ってまいりました。

便所はギャグのつもりで書いた方が筆が進むと気づいた午前1時。俺の名前は滝栄一郎て。連載開始の少女漫画か!
俺様滝様は本当に、書いていて楽しいですね。諸所に光る「俺ものさし」。もう楽しくて楽しくて脳病院だ!つ、通報して!
ドエスとドエスを掛け合わせるのが好きです。ドリメンズがドエスが多いから、ヒロインもドエス。駄目な害虫だな!

エスプレイは教養の1つですが何か、でなく、国宝級童貞の便所様を、1度書いてみたかったというオチがついた。
昨今、若者の性がケオス!なので童貞はもう国宝にしても良いと思う。と、マイバイブルのサブラに書いてありました。
ほんとサブラおもしろいよね。まじあれは知識教養の棚に置いてあって然るべきだ。僭越ながら愛読者です。

できて当然の教養だな、とか、豆あんぱん、とか、まだ結婚もしていないのに!とか、軽く嘲笑って頂ければ本懐です
次回、国宝童貞が、焦るでしかし!