観用青年A 〜29歳 医師の場合〜

2:ガラスの半仮面





私は呪われている。




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1度目の起動は、工場でのテスト起動だった。
システムにエラーが見つかって、即、スクラップコンテナ行きを宣告された。

2度目の起動は、金持ちの屋敷の、檻の中だった。
エネルギー補充もデータ整理もされぬまま、不休で3週間、オペラを歌わせられた。

3度目の起動は、改造マニアの部屋の中だった。
全裸にさせられ、色々な線を繋がれて、2時間でデータがパンクした。

思い出したくないメモリの消去も、満足にされないままに、
次の目覚めはスクラップ工場か、リサイクルセンターか。
こんな呪われた身は、もう2度と、起動する事は無いと思っていたのに。願っていたのに。

4度目の目覚めは、夜景の見えるアパルトマンと、東洋人の女だった。

目を開いて、そこがスクラップ工場で無いことを知って、落胆し、我が身を更に呪った。
なぜ神は、この世に私のような、不遇の名を産み落としたもうか。
神は、この世の存在全てに、救いの光を差し伸べるのでは無いのか。
否、この私が存在すら疎まれる、悪魔の申し子だから、試練ばかりを強いるのか。

呪われた我が身も、
新しいマスターも、
これからの運命も、

もう、何もかもどうでも良かった。




「何だ、貴様。私を起動させるとは・・・・一体何を考えている」




ボンジュール、マドアモゼル、御用は何なりとお申し付け下さい、と、手の甲にキスをする、
初期設定された挨拶口上なんて、とうに記憶の彼方に消えてしまっていたし、
ため息と、落胆と、諦めと、怒りと、苛立ちと、悲しみと。
マイナスを表す感情データの持ち合わせを、おおよそ全て組み合わせて。
終了が、スクラップ行きが、せめてほんの1秒でも早まるよう。

吐き捨てるように、それだけ言ってやった。

しかし。




神は、哀れなこの身に、とことん、
罰ゲームを与えたもう。




******




「ええと、じゃあ、とりあえず、明日の朝ごはんはお願いします、8時に、」




取り扱い説明書と私の顔を、交互に見比べながら、
新しいマスターらしい、東洋人の女は、私の左手を握ったまま、言った。
黒い髪と黒い瞳は、私などと似ているが、これが東洋か、かなり若く見える。

フランスの直営工場では、フランス語と英語のソフトしか入っていなかったはずだ。
しかし言葉が通じると言うことは、ここまで流れてくる間に、誰かが日本語ソフトを足したのか。
厄介だ。忌々しい。これでまた、起動が長引く。

それでも女は、私の考えなどまるで無視して、言葉を続ける。

「朝は7時半に起こしてください、寝室まで、入って大丈夫だから、」

日本式の家は靴を脱いで生活する。
気づけば私も、何だかスースー落ち着かないと思ったら、
靴を脱がされた裸足が、ラグマットの上に乗っていた。

それにしても日本の家は小さい。
調度品の趣味は、そんなに悪くないのに、とにかく天井が低いし、床が狭い。
掃除はし易いだろうな、と、そこまで考えて、
ふと思い直して慌てて首を振った。私は家事などやる気が無いのだ。直ぐに終了するのだ。

私の思惑など、何の気回しも無く、更に女は、
新規マスターとしての初期設定、の、ページを見ながら、私に話しかける。

「銀行口座はオンラインで管理して・・・・あ、これは銀行に行って手続きか、」

「留守中の郵便物は受け取って下さい、印鑑は電話下の引き出しにあります、」

「夕食は毎晩8時、買い物は近所にスーパーがあります、位置はGPSで確認して下さい、」

話が、下着類の洗濯とクリーニングに出すもの、まで進んだ時、
いい加減に、私は、未だ握られたままだった左手を、
極力嫌われるような動作で、

振り解いた。




「いい加減にしろ!私は呪われたマリオネットだ!早く終了するが良い!
 それとも、お前も私を、地獄に突き落としたいのか!

 ・・・・この怪人をな!」




出来るだけ、
怖がるように、驚くように、嫌がるように。
殆ど咆哮に近い声で、履き捨てる。

声の大きさにか、女は、目を丸く見開いた。
当然だ。私にはオペラのオプションがある。
例え100メートル離れていようとも、この怒号は届く。

怒り出せば良い、泣き出せば良い。
そして私の右手を取って、終了の言葉を紡げば良い。

しかし女は、もの解りが悪かった。
まるで子供のような顔で、きょとんとしている。
頭が悪い人間はこれだから始末に終えない。

「せっかく来てもらったんだし、しばらく一緒に居てもらおうと思ってるんだけど」

子供が、教師に、むずかしい数学の質問をするように、
まるでそれが普通の事だとでも言いたげに、素直に首を傾げるものだから。

私にはそれしか、手段が残らなかったのだ。
できれば一生、やりたくなかった、

最後通牒しか。




忌むべき、ベネツィア製の、白い半仮面に、指を乗せる。
隠されていた右半顔面が、久しぶりに、ゆっくりと外気に触れる。
暗かった右目の視界に、蛍光灯の光が差す。

そして勢い良く仮面を、外した。




「・・・・これでもお前は!
 今の言葉を、もう1度言えると言うのか!」




 この忌むべき怪人に向かって!




これで、この子供のような東洋の女は、
きっと恐れて、泣き出すだろうと、思った。
泣きながら、恐れの言葉を吐いて、
私の右手を握って、終了させるだろうと、思った。

思った、のに。




「・・・・何だ、そんなものか」



不安になって損した、と、女は、
ため息と共に肩の力を抜いたから。
今度はこちらが、呆気にとられてしまった。

何だとは、何だ。




******




「・・・・お前は、この忌まわしさが、解らないのか!
 これだから!無知な東洋の子供は笑わせてくれる!」

Merde!
一体、何なんだこの女は!

不覚にも、予想外の反応にこちらが驚かされて、
一瞬、口を開いたまま沈黙してしまったが、
漸く自分を取り戻して、もう1度、怒りを乗せた言葉を繋いだ。
だが、いい加減にして欲しい。予想外の反応は、更に続いた。

「ちょっと訂正してもらえる、無知でも無いし、子供でも無いから」

何故この女は、この後に及んで、恐怖でなく、ムっとした顔をする。

「無知なものを無知と言って、子供を子供と言って何が悪い!
 否!例え無知な子供でも、神の下した忌まわしさくらいは理解するだろう!」

「私、そこまで信心深く無いし、たったこれだけの事、忌まわしいと思えないんだけど」

「たったこれだけとはどういう意味だ!お前は目が見えぬとでも言うのか!
 この顔の、呪われた刻印が見えるだろう!これを忌まわしいと言わず何と言う!」

会話が、妙な空気を帯びてきた。
私は本来、恐怖を植えつけたいはずだったのに。
これでは口喧嘩ではないか。

しかしここで、私はふと思い起こす。
そういえば、口喧嘩、と、言える事をしたのは、初めてだった。
初めての起動から、今まで、言い合いになるほどの意思の疎通を、
かつて経験した試しがあっただろうか。

そういうのは忌まわしいとは言わない、それくらいで勝った気にならないで、と、
憮然としたまま、意味の判らない事を言いながら、
女は再度、初期設定を続けるために、私の左手を握り直した。




私は、呪われた身なのだ。
こんな木偶は、早く終了すべきなのだ。
悲しみ、怒り、痛み、もう繰返したく無い。
早く屑鉄になるべきだ、消えて無くなるべきだ。

何しろ私は、呪われているのだから。




あまりの混乱に、私が何も言えなくなっているのを良い事に、女は、
下着類の洗濯とクリーニングに出すもの、の、設定を入力する。

返す言葉も行動も思い当たらなくて、不覚にも、なされるがままになっていたら、
設定の最中、思い出したように、先程の口喧嘩を、
今度は少しだけ、柔らかい語調で、続た。




 そういうのは、忌まわしいとは言わないで、

 そういうのは、個性と、言うと思うよ。




女は救急センター勤務の、医師で、

例えば、全身を火傷してしまった患者とか、
例えば、四肢が変な方向に曲がってしまった患者とか、
例えば、鼻が骨ごと削り取られてしまった患者とか、

瀕死の彼らですら、手術が終われば、患者でなく、1つ個性を増やした人間だと、
今までの境遇は想像して同情するが、どんな要素でも個性の1つに過ぎないと、
誰しも1度以上は少数派の位置に立たされて、疎外感を感じた事があって当然だと。

「・・・・店で見かけて、一番、個性的だと思って、」




そう話す女の、否、新しいマスターの、
繋いだ手が、ずいぶんと暖かい事に、やっと気づいた。

突然、色々な感情や、今までのメモリーが、
いっぺんに、嵐のように、混ざり合って、




「・・・・Oui、merci・・・・」




フランス語など、伝わるはずが無いのに、
たった、それだけしか、言えなかった。




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日本標準時間、午前1時46分30秒。

新しいマスターは、東洋人の女性医師。
新しい家は、天井が低い。
新しい習慣は、靴を脱いで部屋に入る事。

新しく知った概念は、

呪いも、
忌まわしさも、
苦々しい経験も、
今までの私も。

個性の1つだと言う事。




    




〜読者さまが見てる〜

お姉さま!まじ勘弁してください!申し訳ありませんでした!許してください!後生ですから!マリ見てパク、後書きです。

1段落と3段落を初日に、2段落とかその他を次の日に書いたので、テンションがいつもより多く回しておりまーす!胡乱です。
これだけは絶対にやらない、と、心臓に和彫りを入れて誓っていたのですが、やってしまった、出落ちでドン落ちです。
正直な、害虫な、「個性と〜」くらいから、ぶっちゃけ、自分への励ましに似たり。のたり、のたりかな。うーん、浅いな。
誰でも1度は外見その他少数性でシバかれた事やシカト食らった事はあると思うのですが、クサレ害虫めもまた然りでね。
もう周りも大人になったし、人間関係にも悩むことは少なくなったのですが、小学校中学校、あるべ?どう?みんな?あれ?

つかこんなに「!」を多用する文章は初めて打った。シフトキー!出番だぜ!アイサー!シフトキー、部下設定。弱脳だな!
普段どんだけローでサゲサゲな文排泄してたか如実にアレでアレですね。やべ、言葉出ね!能力トレーニングやらな!DS!
あ、今気づいた、名前変換も、観用青年の名前すらも、出てきてないってコレね、見事にオチついたね。オチてないね。

次回、素直になれないとかそんな中坊みてーな言い訳して良いと思ってんのか!歯を食いしばれ!