〜ドリームメトロ〜

1番線)19:45 恵比寿





白菜半切り149円、
鱈切り身1パック299円、
産直まいたけ198円、
豆腐(木綿)1パック98円、

孤独な俺、プライスレス。




鍋料理が食べたいけれど、疲れているので出かけたくは無い、などと、
あいつが、なめたようなわがままを、その可愛い顔で言うものだから、

現在、19時45分。

自宅のキッチンで、スーパーの買い物袋に囲まれて、
何から手をつければ良いものか、
とりあえず煙草に火をつけるしか出来ない、俺。

学生時分には、悪友何人かと集まって、
鍋を囲む真似事をしたしたことはある。
材料も、調味料も、どうせ食うのは自分たちだからと、
鳥か牛かも解らない肉を、
種類の曖昧な切り身の魚を、
乱暴に手でちぎった野菜を、
悪ふざけでぶち込んで、ビール片手につついた。
途中、誰だったか、コロッケを投げ入れた馬鹿がいて、
最終的に、闇鍋になった。

しかし、今日の鍋は、そんな失態は許されない。

男というのは、完璧でいたいものなのだ。
惚れた女の前では、特に。

それは仕事に限らず、
会話にあっても、政治経済から若者の噂、芸能ニュースまで手広くありたいし、
ファッションにあっても、流行を忘れず、連れて歩きたいと思わせるような身だしなみで、
釣ゴルフ麻雀、接待ものの賭け事は、勝ちすぎず負けすぎず、
食事のマナーは和洋中、懐石から立食パーティ、冠婚葬祭の辞典でありたい。

だが、何事にもエアポケットはあるものだ。

料理!




煙草が、フィルターまであと1センチのところまで無くなって、
手持ち無沙汰にしていても、何も始まらぬ。
昨日、インターネットから探し出して、プリントアウトておいた、
「鍋料理の作り方4〜鱈ちり鍋〜」に、目を通す。
出汁って何だ。煮れば良いのか。

数年間、戸棚に眠ったままになっていた、土鍋を出した。




あいつの前で、俺は今まで、
これといった失態を犯して来なかった、気がする。

誕生日、クリスマス、その他記念日、
女の好きそうなアニバーサリーを忘れずに、
空気を読んだ贈り物、忘れられない言葉、夜景や食事のサプライズ。
その度に見る、嬉しそうな、ありがとう、と、言う瞳。
たった5文字のそれだけれど、俺の努力は安過ぎる代償だ。

まいったな。けっこう、惚れ込んでいる。

今日も、そのたった5文字を聞きたいがために、
意味の解らない単語が並ぶ、インクジェット紙を睨んでいるけれど、
しかし、まいった。隠し包丁って何だ。どう隠せと。
料理は精神論じゃ出来ない。

ラップとパックに包まれた食材を、とりあえず洗って並べる。
煮えにくいものから順に、と、インクジェット紙の言っている事は解る。
だが、何が1番煮えにくいのか。魚か、野菜か、豆腐しらたき類か。




時間は刻一刻と、無情に過ぎてゆく。
仕事が終わるのが、たぶん8時くらい、ここに着くのは半くらいか。
もし、俺がこのまま何も出来ずに、材料に囲まれていたら、
疲れているんだけど、と、多少文句を言いながらも、キッチンは乗っ取られ、
俺たちは確実に、美味い鱈ちり鍋にありつける。

あいつに小言を言われるのは、実はそんなに、嫌じゃない。
しかし今日は、小言よりももっと、聞きたい言葉があるのだ。

一旦、自宅に寄ってくれる事を願う。何としてでも時間を稼ぎたい。

白菜が、一番煮えにくい、気がする。
ナントカ切り、の、種類が解らないから、
適当に食べやすい大きさに刻んでいく。
もうこの際、火が通れば何でも良い。
包丁が、まな板を叩く度に、懐かしい音がした。




俺が勝手に判断した、煮えにくそうなもの、を、
あらかた切り終え、鍋に放り込んだ時。
つけっぱなしにしてあったテレビの、バラエティ番組の笑い声に混じって、

その音は、響いた。

俺の、尻ポケットを震わせて、着信を知らせる、
この音楽を鳴らせるのはただ1人の、電子音。
実はこの音を聞くだけで、ほんの少し嬉しくなるのだ。
悔しいから絶対、言わないけれど。




『・・・・もしもし?どこにいる?今終わったから、一回家に帰ってから向か、』

「貴様!遅いぞ!俺はもう家だ!」

声だけ怒っているふりをしたけれど、ばれている気がする。
顔が、笑っていることは。

『家?何か買っていくものある?家で食事でしょう?』

俺の、怒っているふり、を、まるで適当にあしらって、
しゃくだれど嬉しいから、ビールが足りない、とだけ言った。

『ビールね、わかった』

じゃあ30分くらいで着くから、と、声が遠のく。
まずい。あと30分しかない。

こうなったら。

「あ、ちょっと!待て!切るな!」

『・・・・え?何?』




「・・・・だ、出汁って、どうやって作るか、教えてくれ」




これは退却じゃない。いうなれば転進だ。
言い訳じゃない。俺は勝ち戦しかしない主義だ。

料理に四苦八苦しているなんて、恥ずかしくて言えたもんじゃない。
鍋は俺が食いたいから作るのであって。
断じて、喜ぶ顔が見たいとか、そういうのじゃ。




『・・・・ふふ、ありがと、じゃあその材料も買っていくね』




切れた電話の、受信口と、
俺の、耳元には、

ありがと、の一言だけが、残る。




くそ!

このタイミングで言われたら、
俺はどうしようも無いではないか!




仕方ないから、残りの食材を、切るだけ切って。
その玄関が開かれるまでの、残り10分。

煙草に、火をつけた。




******




足りないと言ったのはビールだけなのに、
やっぱり鍋には日本酒だよね、と、
スーパーの袋には、ガラス瓶が1本、追加されていた。

まいったな。




全く、敵わない。




    




〜1番線に、後悔経由、後書き行き、電車が参ります〜

えー次はー後悔ー後悔ー、お出口右側ー、サイト閉鎖線、引きこもり線、自虐線はー、お乗換えですー。飛び込み自殺!

名前変換の無い、できればキャラの名前すら出ないドリ、を、書く企画、見事暗礁に乗り上げました。脱線事故だ!
クサレドリも数を増やし、マンネリ化してきたアレに闘魂注入!ケツからドーピング!尿検アウト!みたいな、ね。
1キャラ1本の短編で、秋冬かけてだらだら8本、9本、書ければ、良い、な。駄目かな。駄目ですか。ごめんなさい。

何事も かけつけ一発 まず便所。あ、一句詠めた。かけつけ、と書け付け、で韻が、踏めて無い。グッダグダじゃねえの!
便所とヒロインの、職業やバックグラウンド、色々なものはもうご想像に丸投げのスタンスです。どうにかして!脳!
しっかし恵比寿は巷のギョーカイ人、小金持ちが、こぞって住みたがる場所ですね。便所め!またか!歯を食いしばれ!

便所、ヒロイン、の描写を、出来うる限り、胡乱に曖昧に微妙にごまかしごまかしヤったのですが、
良い設定、ご想像して下さった情景がございましたら、是非お聞きしたいです。お願いします。それが頼りです。虫の息です。
便所の職業は?自宅の間取りは?着ている服は?ヒロインの職業は?ヒロインの外見は?とか、それが頼りです。瀕死です。

2発目は、渋谷、22:59。帝都のケオスに恋の乱気流がワイルドにビューンですZE!