君はマーメイド!
act.23〜カルシウムは桜エビで!





なんかむかつく。




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俺の、例えば喜びや酔いやハイテンションは、他から見て解り難いらしいが、
疲労とか、イラつき、怒りは、それらに比べて比較的、解り易いらしい。

大和との鍔迫り合いは、丁度、朝の配食の時刻に終幕を告げて、
臨戦態勢だった俺たちは、漸く一時の小休止を与えられた。
洋介たちが帰艦するまで、幹部の会議も無いだろう。
朝食後は久しぶりに、ゆっくり眠れるかも知れない。

と、やや安堵の念を思いながら、科員食堂に足を運んだ。
本来なら俺は、士官食堂で食事をするべきだ。
俺が居ては、他の課員たちが心を許せないかも知れない。
30余年も生きて、自分が他人に、どう見られているかは解っているつもりだ。
しかし、津田大尉の様子も見ておきたいし、ある程度は監視も必要だと思う

そう思ったのが運の尽き。後悔先に立たず。後の祭り。
やはり士官食堂に向かうべきだった。

こんなに不快になるなんて!




何時の間に、そんなに仲良くなったんだ。

空いた席に腰を下ろした、俺の視界の隅に、その2人の姿が飛び込んで、
なぜ俺は、こんなに小さな事で、こんなにもイライラするんだ。
カルシウムが不足しているはずはない。栄養の考えられた食事を毎日摂っているのだから。
青魚に箸をつけながら、それでも俺の目は、その2人を凝視していた。

俺たち海自のものとは、少しデザインの違う、白い軍服と、
青い作業着の中に目立つ、若く、彩度の高い私服は、
食堂の、隅の席に向かい合って座って、談笑している。
1日の半分はインカムを着けて過ごす、少しだけ自信のある俺の聴力でも、
これだけ離れた位置からでは、方々の雑音に遮られて、その会話の内容までは聞き取れない。
しかし、白い軍服の発言に、笑顔の相槌が返されていて、
何だよ、会話が弾んでいるようじゃないか。

なんかむかつく。

煙草を吸う康平や洋介は、ニコチンが切れるとイライラする、と、言う。
でも俺は煙草を吸わないから、ここでニコチンを補給しても何ら意味も無い。
喫煙者はよくあんな、毒素で出来た煙を肺の中に蔓延させられるものだ。
しかし、例えばこんなイライラが、喫煙で治まるとしたら、
喫煙は百害あって一利無し、は、あながちそうとも言い切れないかも知れない。

そういえば、昔読んだ何かの本で、記者や編集者は高喫煙率だ、とあった。
その時は、職業別に喫煙率の統計を採るのは興味深いな、くらいにしか思わなかったが、
この艦に従軍している片桐記者は、煙草を吸いながらパソコンに向かうのを何度か見ている。
同じ記者であるさんは、煙草を吸うのだろうか。

そこまで考えて、はたと気づく。
せっかく思考が、煙草について、に移りつつあったのに、
結局、最後に行き着く所は。




くそ、別に彼女が誰と談笑しようと、俺には関係無いはずじゃないか!




無意識のうちに、その2人を見遣ってしまう視線を、
無理矢理どこかしこへ移動させて、箸を急ぐ俺は、

挙動不信すぎる。




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ちゃんと1人分完食したはずなのに、食後のコーヒーを口にしても、
何だか全く、食べた気になれていなかった。
たぶんきっと疲れているのだ。CICではあんなに張り詰めていたから。
そうで無ければ、この不快感の理由が見つからない。
何の意味の無い小さなことで、こんなにイライラするなんて、
俺は本来、もっと気の長い男だったはずだ。疲労のせいだ。そうに決まっている。

充分な食事を摂って、しっかり休息すれば、きっと元に戻れるだろうと、
俺は食堂から、士官居住区に向かった。




その途中。




通路の隅に、小さく光る何かを、発見したのだ。
疲れで霞んだ視界には、最初はそれがゴミにしか見えなくて、
掃除を怠った奴がいるな、とか、少しだけ怒りを覚えたが。

近づいて、それを拾って、否、拾ってしまって。
その怒りは、何故か。

急激に、高揚に変わった。




元々、外見に無頓着な方では無い。
それこそ高校生のように、こぞって着飾ったりはしないものの、
服や靴や、それなりに物は、知っているつもりでいる。

男所帯に虫が沸く、とはよく言ったものだが、
最近では男所帯でも、そこそこ気を使うものなのだ。このみらいも例外ではない。
科員の若い奴らなんかは、香水はどこどこが良いとか、ムースはどこのでワックスはどこのだとか、
俺も、今ですら、そこまでのこだわりは語れないが、
学生の頃は周りに倣って、少しは勉強して、更に実践もしていた。

しかし、拾ったそれは。

普段俺たちがよく使う、例えば黒とか青とか白とかでなく、
薄いピンク色で、表に小さく金色の文字が入っていて。
ギャッツビーとか、ウーノとか、サクセスじゃない。
形も、よくある簡素な円柱でなく、柔らかいチューブタイプの。
透明な容器の中身は、半分くらいまで使われている。

こんなものは、俺たち男は、使わない。
そしてこの艦に、女性は2名しかいない。
桃井一尉は、こういうのを使う方だったろうか。
どちらかというと、もう1名を思い出す。




リップクリーム、否、リップグロス、とか、言うやつだ。




初めて取材を受けた日の、真正面から見据える笑顔の、
森三尉に涙した、至近距離から見つめた顔の、
薄く色づいて、柔らかそうな、その唇。

落し物を拾った手の、手首から先が、途端に緊張で固まった。

ちょうどその時、
図ったようなタイミングで。




「菊池さん!」




噂をすれば影では無いが、考えていたら、影。
背後から呼びかけられた、その細い声に、俺の背筋は、
格好悪くも、びくりと跳ねてしまった気がする。




******




「あ・・・・ああ、さん、」

少しの疲労もしていないような、せいぜい強靭な男を装って、何故か装いたくて、振り向いた。
しかし、記者という生き物は、総じて人を見抜く性質を持っているもので。
俺の伊達役者など、到底、及ぶはずはなかった。

「大丈夫ですか、かなり、お疲れのようですけど」

心配そうな大きな瞳が、俺の両目を真っ直ぐ見上げる。
その唇は、しばしば綺麗な歯列を覗かせながら、俺を案じる言葉を紡ぐ。
何故だかそれに、急に動悸が激しくなって、頭に血が上るって、
失礼にも一瞬だけ、目を逸らしてしまった。
どうしてだ。何か俺が、後ろ暗いみたいじゃないか。隠す事など、何も無いはずなのに。
それでも、薄ら汗を握った手には、先程の拾い物が、まるで秘密のように包まれている。

「いや、問題無い、どうせこれから非直だから」

「良かった、昨日から緊張の中で徹夜ですから、ちょっと心配で」

心配?俺を?

少しだけ頭をよぎった馬鹿な質問は、すぐに俺自身で否定した。
何を考えているんだ俺は。
さんが心配しているのは、科員全員であって。
俺だけに向けられた言葉な訳が。あるはず無い。そんな事。

でもどうしてだ、俺の気持ちは、こんなに舞い上がる。

「洋す、・・・・角松二佐らが戻るまでは、たぶん何も無いから、あなたも休むと良い」

はい、そうします、と、笑って踵を返した彼女の、
救命胴衣の似合わない細い背中を、士官寝室の扉が閉まるまで、見送った。




それを言い出すタイミングが見つからなくて、
拾った薄いピンク色は、未だ俺の手の中で。

別に、次に話すきっかけができたとか、そういう訳じゃ無いからな!

言い訳をする相手は、間違いなく自分自身だが、
俺は、どうしてここまで、たかが1人の記者に固執する。
疑問と、言い出せなかった少しだけの後悔を、汗と一緒に握り締めて、
とりあえず今は、睡眠を摂るのが先決だと、
疲れて朦朧とする頭で考えながら、士官寝室の扉を閉めた。




明け方に降り注いだ雨が、付近の雨雲を掻き集めて連れて行った。
南国の朝陽は煌々と、今日も低い位置からみらいを照らす。
海は凪。透明な海面に、極彩色の魚が跳ねる。




    




〜こちら角松・・・・砲雷長、気味が悪いな、後書きとは〜

どんだけキショがられても書く!それがクサレ二次創作に対してのどM精神です。もちメガヌのMですね。モイキー。

イライラメガヌ、キレメガヌ、挙動不審メガヌ、取得物横領メガヌ・・・・書きたかったメガヌをメガヌできて今とてもメガヌです。
1人称でメガヌを書くときは、熟語や慣用句をさも嫌がらせのように入れる作業がとても楽しい。どんだけ?!ガリ勉ですか!メガヌよ!
入れるかどうか最後まで悩んだんだけど、「男所帯に虫が沸く」は、かなり差別的表現だよな。あと「俺たち男は、使わない」もね。
でも発信源がであり、異性に恋をする場合にのみ、「俺は男です」的表現は、必要悪な気がするので許して下さいまじもうしないから。

なんかむかつく、とかさ、メガヌみたいなキャラが言うと逆にちょっと強めじゃね?そんだけ。

あー、まじもうそろそろメガヌに片思いフラグ(あ、これ、恋じゃん、て、自覚する事)を立てなければならない修羅場だ
そろそろね、場ぁもたなくなってきた。何だこのイライラ感。あ、そうか、カルシウムが足りないんだね。オマージュすぎる!
原作の、5巻頭で フラグしよ。あ、一句読めた。今は4巻のケツ一歩手前です。説明しないと解らん創作なぞやめちまえ!あざーす!

次回、忠犬インプリンティング!ヤマ無しオチ無しイミ無しで、メガヌの半ギレ煽っちゃいNA☆忠犬、盛りでがっつり押し。