君はマーメイド!
act.22〜あさがおの君。〜
その扉の前に立ち、ノックの1分前、あの時のコツを、思い出す。
話始めには相手の名を呼ぶ。ミラー話法と選択話法。
単語を区切って話す。視線は喉元、語尾で目元。
相槌は目を見てゆっくりと。9割雑談、1割核心。
デジカメのメモリ残量を確認して、わざとゆっくり、その扉を叩いた。
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私たちの時代はね、男が情けないって事・・・・もうバレちゃってんの
ばれている、とはどういう意味なのか。
まるで今の時代の男たちは、情けなさをひた隠しにしているようではないか。
断じて、そんな事は無い、はずだ。
御国のために潔く散華していった、あの先輩も、あの同期も、
皆あんなに頼もしく、あんなに勇ましかったのに。
情けないのは、きっと私だけなのだ。
靖国で待つ彼らの元へ、ついに自分も向かうと思ったのに、
さっきまで抜き身だった軍刀は、すっかり鞘に納まって、
今はもう、例えばこれからどうすべきか、などと、先の事を考える、
貪欲に生に縋り付く、私は何て意気地なしなんだろう。
軍服の前を整えて、ついでに手持ちの時計を見ると、
時刻は0550、よく知る帝国海軍の艦なら、総員起コシ5分前、の、そのまた5分前だ。
戦闘は、もう終幕したのだろうか。
この部屋にいた分には、被弾や損傷の衝撃は全くと言って良い程感じなかったが、
あの大和と砲火を交えて、もし無傷で済んでいるなら、この艦は、やはり、未来だ。
たぶん草加少佐は、もうここへは戻ってくる事は無い。
私の立場は、これから、どのように位置づけされるのだろう。
妥当な線で、捕虜。次点で間謀。どのみち先は暗い。
やはりさっきの時点で、靖国の桜となれば良かっただろうか。
しかし、思ってはみても鞘に収められた軍刀を、もう1度抜く気にはなれなかった。
その時、エンジン音と波音の隙間に、
耳を澄まさねば聞こえない程の、小さなノックの音が滑った。
誰だか解らないので、返事をせぬまま振り向く。
すると、予想したよりも、かなり低い位置、ゆっくりと開くドアから。
「・・・・津田さん、記者の、です、今よろしいですか?」
袖口から覗く、細い腕。
海の似合わぬ、白い肌。
柔らかく淡い、高い声。
睫毛の長い、大きな瞳。
夕陽に包まれた、東進丸での、暖かい笑顔を、思い出す。
、、何故か下の名前まで覚えていた。
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とっさの返事に、戸惑ってしまった。
今よろしいですか、なんて。
捕虜に対してそんな対応、少なくとも、聞いたことは無い。
「・・・・は、どうぞ、」
それ以前に、今良いも悪いも無い。
てっきりこれから、どこかに監禁されるものとばかり思っていたのに。
ありがとうございます、と、入室する彼女が、
まさか、ここから私を縛り上げて、営倉に放り込むとも思えない。
「草加さんに託っているんです、津田さんに、未来をお見せするように。
それから、取材としてのお話も、お聞きしたいのですが」
私も、背は高い方では無いけれど、目の前に立つ姿は、小さい。
こんな若い女性が、記者という仕事に就いて、軍艦に乗り込むのか、未来では。
それにしても、頭の中で、女性、と表現してしまうだけで、
何だか緊張してくるような気がするから、私もつくづく、情けない。
「は、よ、宜しく、御願い致します」
四散してしまいそうになる意識を、何とか取り戻して、
とにかくそれだけ言って、頭を下げた。
女性を、ずっと立たせたままにしておくのも失礼だし、
私は、この部屋に1つだけある椅子を勧めたが、
彼女はそれを、丁寧に断って、
お疲れではないですか、丸1日お休みになってないでしょう、と、
私を気遣う言葉をかけながら、ベッドの隅に座った。
海軍たるもの、グローバルな観点に立たなければならない、
と、兵学校では、徹底した紳士教育が施される。
例えば、ダンスから、テーブルマナー、乗馬、カードゲームに至るまで。
欧米では必要だからと、レディーファーストの精神も叩き込まれた。
至らぬながら私にも、一応、その教えが染み付いている。
女性を追いやって、私だけ椅子に座るのも失礼だ、
しかし断じて、ベッドの隣に座るわけにもいかない。それはできない。
不恰好に躊躇う私を、彼女は見抜いたのだろうか。
「・・・・どうぞ、お楽になさってください」
柔らかく微笑んで、着席を促された。
私はやはり、情けない。
「もうそろそろ朝食の時間ですが、それまでお時間よろしいですか」
向かい合う形で座った彼女は、小さな手に、更に小さな銀色の機械を包む。
昨日の東進丸で、それは未来のカメラだと知った。
「は、・・・・しかし、取材と言われても、私は、何を、」
映画俳優でもあるまい、一介の軍人、しかもたかだか大尉の私が、
当然だが、記者からの取材など、生まれてこの方、受けた事など無い。
そもそも注目されて話すのも、そして女性と話すのも、それほど得意では無いのに。
二人しかいない船室。
エンジン音に混じって、女性特有の、柔らかく細い声が、鼓膜を叩いて。
白手袋をはめた手の平が、薄らと汗を握る。
これだから、石部金吉、などと馬鹿にされてしまう。
「草加さんには、海軍の生活とか、思い出とか、伺っていました」
たまに視線の合う瞳が、陶器人形のように大きい。
長い睫毛は、頬に蛍光灯の影を作って、まばたきの度に音がしそうだ。
細く柔らかそうな髪は、烏羽色には遠いが、艶めいて不思議な色をしている。
草加少佐も、こんな風に感想を持っただろうか。
未来の女性は、何て。
綺麗だ。
つい、珍しいものを見るように、凝視してしまっていた。
それに気づいた彼女に、不思議そうな顔をされて、慌てて視線を逸らす。
こんなに近い距離で、女性の顔を見つめるなんて。
何をしているんだ私は。
「か、海軍の、生活とか思い出ですね、」
無理矢理に頭を切り替えて、生まれて初めての、取材、に、姿勢を正した。
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取材される身でありながら、かなり、下らない事ばかり話してしまったが、
彼女が、あまりにも楽しそうに相槌を打つものだから、
まるで雑談であるかのように、いつになく多弁になってしまった気がする。
もともと話しの上手い方では無い。
しかし、言葉尻の一つ一つに、おもしろそうに笑う彼女を見て、
クラスで話の上手かった奴や、ガンルームでの話題を思い出して、
必死でそれを真似て、会話が途切れないように、言葉が尽きないように。
もちろん私に、女の友人など居るわけが無いから、
そういえば家族以外の女性と、雑談を交わすのは、久しく無かった。
それは、相槌を一つ貰うたび、
胸がドキドキ高鳴って、
不安だけれど嬉しくて、
時間が早く過ぎ去るようで。
女性と会話をする事が、こんなに楽しい事なんて。
給料が出る毎に、エスプレイに忙しいクラスの、
気持ちが今になってやっと解った気がした。
ネイヴィーたるもの、風流の道にも秀でていねばならぬと、
彼らのご高説を拝聴しながら、今までの私は、それを眩しく思う事しかできなかったから。
彼女が頷く度に、柔らかそうな髪が揺れて光る。
白く華奢な指先が、小さな帳面に、時折ペンを走らせる。
向かって真っ直ぐ投げられる、優しい返事。
できる事ならこの時が、このまま、もう少しだけ、続いてくれれば良いのに。
しかし、当たり前だが時間は過ぎて、
部屋の隅のスピーカーから、良く知る、帝国海軍のそれと同じラッパの音が響いた。
聞いて彼女は、細い手首に巻かれた腕時計を見る。
そうか、彼女は音だけでは、何の号令か解らないのだ。
食事のラッパです、と、先輩面して教えたのは、少し調子に乗りすぎていただろうか。
お話ありがとうございました、と、
頭を下げる彼女の、頬に垂れた細い毛束に。
何故、私は、寂しいなどと、思うのか。
終わってしまった会話の、余韻をまとって、
彼女は部屋のドアを開ける。
終わるのか、終わってしまうのか、この時間は。
「・・・・あの、さん!」
扉が閉じかかる、ほんの数センチの隙間、
私の喉は、そう意識する前に、たぶん初めて、名を呼んだ。
「その・・・・私で良ければ、また、取材に、協力させて下さい!」
考える前にまた、勝手に喉から言葉が飛び出す。
心臓が、五月蝿くて、喉まで意識が向かぬのだ。
協力したいなんて、でしゃばりにも程があるのに、たかだか大尉の分際で。
まさか彼女は、気を悪くしや、しないだろうか。
まさか彼女は、私を嫌いや、しないだろうか。
けれど、
急に不安に飲まれてしまう私の、
まるで、心臓を暖めるように、
「ありがとうございます、ぜひ、喜んで!」
見慣れぬカメラを提げて笑った、
その明るい瞳を、小さな肩を、細い指先を。
服装の細かな部分まで、きっと私は、
一生、忘れられない。
水平線から昇る朝陽は、
珊瑚の透ける海と、濃い緑の島影、
そして灰色の艦を、照らす。
生きる、全てのものに、朝は等しく訪れる。
生きていれば必ず、朝が来る。
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〜笑ってください・・・・後書きが、怖いんだ・・・・〜
どんだけ恐怖の後書きなのか激しく気になるところですが先にすすみましょう、ではVTR、スタート☆もう割腹でもします。
あーあーあーあ、くそ!とても、悔しいです、後から加筆する確立98%。残り2%は君の心のアルバムにそっと忍ばせて。
津田の自殺未遂、を、どうにもこうにも軽く見ることが出来ず、もっとピンクにムハハしたかったのに!くそ!悔しい!
でも良いか、こっから先、原作で言うところの、5巻半ばまで、みっちり津田津田津田津田津田犬津田津田津田、です。
やっぱ津田はね、ドイツ編の悲しい事件の前に、甘い汁をたんと吸わせて、このダートの芝生を3馬身差で先にゴール、な予定。
舞台を降りることが解っているキャラクタは、無念に思いながらも、頭出しです。
まあ一応、将棋でいうとこの1マスは進められたので、まずまず、乾杯させてください!飲みー方ーはじめー!
逆ハは、言うなれば1つの、全部の駒が歩の将棋、のようなものです。1駒1駒着実に。安心の実績。恋する中年、プライスレス。
あ、言っとこ、いつか言いたかったんだ。キャラに恋愛フラグを立てる時の、サブタイトルに共通点を持たせてあります。JIKO☆MAN!害虫戦士☆自己マン!
〜○○の君〜と、あたかも平安時代のアレでアレなアレをオマージュですが何か。害虫戦士☆自己マン!参上、否、惨状!荒地さ!
メガヌは長いスパンで書きたいと思ってるので、○○の君、は、まだ先です。草加と津田だけね、先に頭出しとかないとね。
あー駄目だな、後書きにもテンション上がんね。すげーロー。徐々にアゲでいきたい。くそ。悔しいな。
次回、はあ?お前何?何のつもり?聞いてないんすけど実際、まじ、どうにかしてくれ津田大尉、と、メガヌ半ギレに100メガヌ。