君はマーメイド!
act.21〜メンタルスコール〜
明け方、もう1機の銀翼に乗り込んで、物々しい武装の角松さんらは、飛び立った。
一応、俺たち記者2名も、従軍させて下さい、と、玉砕覚悟で頼み込んではみたものの、
やはり今回ばかりは、あっさりと断られた。玉砕。
角松さんが、例えば湾岸戦争に乗り込む政府軍か、解放軍籍の者だったら、
そして俺たち2名が、ジャーナリストの間で神と讃えられる、一之瀬泰造ででもあったのなら、
その結果は違っていたかも知れない。
武力ではなく、救命活動を目的とした「軍」の、そこが取材の限界だった。
「何だ、俺たちはしばらく火事場待ちだな、また暇潰しか」
どうせCICに残っても、一民間人の俺たちに、情報源のインカムが回ってくる事はまず無い。
非直の科員たちが、不安そうに額を集める食堂で、
こういう時、半端な蚊帳の外に立たされる記者たちは、妙にけろりと落ち着いている。
「・・・・できれば火事場も無いと良いんですけど」
向かいの席でカップを傾けるは、まるで一人だけ平和主義者のようにそう言ったが、
本意は目に見えている。記者とは本来、火事場の野次馬が大好きな人間だ。
その証拠か、白く細い手に、デジタルカメラを握り締めて、は臨戦態勢だった。
それにしても、俺もも、いつでも野次馬できる準備は整っているのに。
「・・・・なあ、暇だよなあ、おい」
「平和で何よりです」
「あ、お前、さては記者じゃないね。記者は騒ぎが好きな生き物だぜ?」
「平和を愛する記者なんですよ」
「俺はこんな退屈、死んじまうよ、なあ、、」
「はい?」
「しりとりでもするか、俺からな、しりとり。ほい、り、だぞ」
「・・・・リアス式海岸」
それでも隠しているつもりか、緊張が丸解りなを、
少しでも和ませようとしたのに、全く人の厚意の解らない奴だ。
******
場を和ませようとした俺の努力は、報われぬまま、
時間の経過と共に、空気はじりじり張り詰めていき、
午前2時40分、CICからの緊急通達で、それは始まった。
火事場だ。
草加が、裏切った。
日本軍は、ガダルカナルを放棄しない。
それは草加自身が叛旗を翻したのか、または尽力したものの実らなかったか、
どういう事なのかは解らないが、つまり結局、そういう事になったのだ。
午前2時55分。
俺とは、白い尾を引いて神の矢が、天高く走り抜けたのを、
ファインダー越しに見つめた。
「びびるんじゃないよ!こっからが本番だ!」
隣でが、小さな肩を小刻みに震わせていたから、叱咤したが、
正直、俺自身に言い聞かせていたのかも知れない。膝が笑っていた。
午前3時30分。
水平線が、薄らと明るみを帯びてきて、
俺たちはカメラを、赤外線レンズから望遠レンズに切り替えた。
艦に乗って必ず最初に、従軍ジャーナリストに言い渡される事項がある。
いかなる場合も、甲板艦橋での、フラッシュ撮影は禁止です。
それはこの艦だけでなく、例えばイラクでも北朝鮮でも、同じだ。
一瞬の光が、命取りになる。
午前4時30分。
再び甲板は、真っ白い光に包まれた。
ファインダーを通して見つめる、人を殺すためのその光は、何と美しいものなのか。
こんな感想を、不謹慎だとか、忌まわしいとか、思う人もいるだろう。
それでも、美しいものは美しい。率直な感銘は俺自身にすら止められない。
隣でレンズを向けるの目にも、この光が焼きついたらしい。
ほお、と、1度だけ、感嘆のため息を漏らしたのを、
爆音を過ぎ去って安定を取り戻した俺の鼓膜が、拾った。
激しく美しい光と、圧倒する轟音が通り過ぎた海は、
また元の、真っ黒な静寂に戻る。
波音と、薄く明るくなってきた東の空。
「・・・・おい、平和だね」
俺の言葉に、が、全身を使って大きく息を吐き、返事の代わりにした。
まるでここ数時間、呼吸をしていなかったかのような音だった。
俺が初めて従軍、と名の付く仕事で戦場を走り回ったのは、コソボだ。
その頃俺は、まだ駆け出しに毛が生えたような尻の青いガキで、
取材した、と言うよりは、逃げ回った、に近かったけれど。
初めて見た、夜空に降り注ぐミサイルは、まるで流れ星のように美しく、それでも兵器だった。
隣に立つはどうだろう。
仕事の出来る将来有望な新人は、この兵器の美しさを、
そして、戦場と言う場の切っ先のような空気を、どう受け止めているのか。
コソボからは、生きて帰れないかも知れない、そういう不安はあった。
それでも、飛行機のチケットさえ取れれば、故郷には親父とお袋が、
いつでも笑って待っていた。帰る場所があった。
隣に立つは。
「・・・・、先、休んで良いぜ、これから暫く何もないだろうからさ」
角松さんたちが帰ってきたら、また走り回んなきゃなんないし。
できるうちにチャージしとくのは、ほら、記者の使命だからね。
何も無かったら、2時間後くらいに起こすから、交代しようぜ。な。
仕事に対してだけは、若いくせに高すぎるプライドを持つだったが、
今回ばかりは珍しく素直で、はい、ではお先に、失礼します、
と、どこか覚束無い足取りで、部屋へと消えて行った。
新人を甘やかすのは、本人のためにならない、とは、正論だ。しかし。
「・・・・お前、張り詰めすぎてんだよなあ」
俺もつくづくだよ。
*****
しかしここで、を休ませるはずが、
逆に新たな仕事を与えてしまう結果になるとは、予想外だった。
午前5時。
通路で擦れ違った桃井一尉が、それを知らせてくれたのだ。
ああ、片桐さん、お疲れ様ね。写真、いっぱい撮れた?
さっきね、偶然さんに会って、あ、もしかしてあの子、今忙しかったかしら。
ううん、申し訳ないんだけど、頼み事しちゃってね。
津田大尉がね・・・・ちょっと、今、一人にしておかない方が良さそうだったから。
自殺未遂、否、割腹未遂、だそうだった。
江戸時代のサムライでもあるまいし、ハラキリなんて!
そんな驚くべきアナクロニズムが、まかり通ってしまう、
今この時代が、戦時中の昭和であることを、俺は改めて再確認した。
宇宙に飛び出すロケットのような、美しい兵器を見た後で、急に現実に引き戻される。
現代の、いわゆる自殺じゃなくて、昭和の切腹だからね、
臨床心理に当て嵌めて良いのか解らないんだけど、
リストカットとかも含めて自傷行為は、突発的な熱病みたいなものだから。
もう大丈夫だと思うんだけど、ちょっと不安だったから。
取材でも撮影でも、何か理由つけて、津田大尉を見張ってて貰おうと思って。
忙しい所ごめんね、と、桃井一尉は自分の方が忙しそうに、去って行った。
俺たちが生きていた、21世紀の、こと日本においては、
例えば自傷行為を伴うような心療内科系の罹患率は、高かった。
精神安定剤や、睡眠導入剤など、誰しも1度は服用したことが、あって当たり前の世界。
が艦に乗る少し前に取材した、不登校とフリースクールに関しての記事で、
取材した12歳以下の児童、俺から見れば子供というより乳幼児だったが、
驚くことに、その約80%が、心療内科で何らかの投薬を施されていた。
約80%、と、保守的な数値を叩き出す所が、の甘さであって、優しさだと思う。
しかし今は、鬱病患者飽和状態の21世紀ではなく、戦争中の昭和だ。
この時代、果たして自傷行為、否、切腹という聞き慣れない言葉は、どういう意味を持つのか。
保守的な数値を出し、尻も青く、平和を愛する優しい記者は。
「・・・・せいぜい、おもしろい記事取って来いよ、」
修羅場の後の、心地よい倦怠感と、それ以上の爽快感を纏って、
俺は2時間後の、きっとが起こしに来るその時間まで、
できるうちにチャージしとくのは、ほら、記者の使命だからね。
散らかりまくった士官寝室のドアを閉めた。
海自風に言うところの、マルゴ、フタマル。
着の身着のまま、寝台に倒れこんで、
戦いつかれたジャーナリストは、泥のように眠る。
空は曇天。南国らしい、糸の様な雨が、
20世紀の海に浮かぶ、21世紀の艦を叩き、
意識を手放す、ほんの数瞬前、
防水カメラの準備をしなければ、と、思い出した。
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〜菊池ははずさん!・・・・君マの後書きは1発も落ちて来ん!〜
もう後書き入りのパロもリミテーションです。え?どこに後書きの文字が?ああここか、的な擬装具合。脳が枯死している。
これを書いていたとき、持病の、脳のアレからくる激しい偏頭痛で、もう何を書いているのか、俺は何なのか、俺は何だー!害虫でした。
だから2作続けて片桐さん発射とか、紐の掛け間違いみたいなハメになる。ごめんなさいもうしません。くそ!くやしいな!
例えば、草加を激プッシュしていたシンガポら辺では、ピンクでウハハなシチュエーションにイニシエーションでパッション、で、
ドリ1本につき、原作では8ページしか進まない、みたいな大変な牛歩戦術に亀井もびっくり、でしたが、
ここはね、角松上陸部隊編はね、まじ書くとこ無い。絡ませるとこ無い。やる事無い。三重苦のヴァイブレーションでした。テンション低!
だってこれ、前回の菊池の流れ弾から原作でいうと1冊の半分は進んでるからね。キャッホウ!便所出馬が刻一刻と!近づいている!
身分違いも甚だしく害虫ですが妄言を連ねさせて頂きますと、ドリの1本1本には、必ず主旋律を考えて書きたいと思っていまして、
例えば、ヒロインを送り出す菊池の回なら「職業差」、草加とダンスの回なら「下心」、前回の片桐マジギレなら「ジェンダー」。
テーマ、と言ってしまうと大きくなりすぎる気がするので、主旋律、程度の曖昧模糊、魑魅魍魎のゴミのような世界なのですが。
今回は最後の最後まで、2つあったうちの、どっちを主旋律にするか悩んで、結局書いてしまって、ほら、やっぱ纏まってねーじゃん!
今ものすごく後悔の海に大航海です。くそ!激しく悔しい!次回の片桐で絶対リベンジします。
あ、まるでチンカスのように無駄で無為で無力な小汚い伏線をここでやっと出せて、今ちょっとゴールした感がソナーに感!
3作目の「センチメンタルトロピカル」で、三羽とヒロインがしていた雑談の内容、不登校とフリースクールについての記事。
ここさ!ここで出したかったの!津田!出し切った感が2000ワンワン!今日も明るくヒッキー害虫ですワン!
あ、片桐さんの初従軍がコソボ、となってますが、これね、ちょっと未来の時間軸で書いてるからね。許してくださいもうしません後生ですから!
さて、2作続けてラブのラの字もねえような泥臭い殴り書きになってしまっていますので、次回は、
猛省の 念も露わに どピンクで。あ、一句読めたね。次こそ忠犬津田公のケツぶっ叩きます。走れ!純情サラブレッド!