君はマーメイド!
act.18〜追い風熱射〜





無事帰艦した洋介に、わざわざCICを出て挨拶に行くなんて、
俺もいい加減、人が良い。

「副長、お疲れ様です、ご無事で何よりです」

他に居た科員の手前、やや余所余所しい言葉を使いはしたが、
付き合いの長さ故か、洋介にはしっかり伝わって、

「ああ、不在中、良く艦を守ってくれた、礼を言うぞ、」

言葉の最後に、雅行、が来る事が、俺にもしっかり伝わった。
しかし、洋介が続けた発言が、

「・・・・さんにも、お帰りくらい、言いに行けよ」

それは、どういう意味なのか。
付き合いの長さにも、解らない事もあるものだ。
だが、たった2人で、命の危険も伴う任務に就いて、
洋介だけを労って、もう片方を無視する訳にもいかない。
言いに行けよ、とは副長から砲雷長への、ある意味、命令とも取れるのだから。

そう考える俺は、言い訳じみているだろうか。

目指す小さな背中の、居るであろう甲板に、足を進める歩調が、
心なしか早くなっているのは、きっと、休憩時間が短い所為だ。

半日以上も、暗室めいたCICに篭りきりで、
久々に開けた、甲板へのハッチ。
南国の、射抜くような太陽が、一瞬にして体温を上げた。




その小さな背中を見ていなかったのは、
たった、2週間足らずのはずなのに。
偽装のため小さな男物のスーツに身を纏った、
少年に見える、彼女の後姿を発見して。

さん!

何故か、俺の口は、俺の意思とは無関係に、
まるで別人のような、優しく嬉しい声で名を呼びそうになって、
慌てて、口を閉じた。

どうも何か、自分自身の、コントロールが上手く出来ない。
南国の暑さに、当てられでもしているのだろうか。

小さなスーツの背中は、俺に気づかず、
まずは、やはり当然だろう、同業であり唯一の仲間、片桐の元へ駆け寄る。
荷下ろし作業に励む、科員たち、そして兵士たちの声が辺りに響き、
彼女と片桐の会話は、俺の耳まで届かない。
しかし、どんな事を話しているのかは、容易に想像がついた。

片桐は、その小さな背を、恰幅の良い体全体で、抱きしめた。
『よく帰ってきた』『心配していたぞ』『それにヒマだった』『艦はもう撮り飽きたよ』
太い腕に、絡め取られた彼女は、
苦しそうに、でも嬉しそうに、その抱擁に答える。
『苦しいですよ片桐さん』『画を見せますから』『とりあえず放して下さい』

台詞は全くもって俺の想像だが、きっと正しいに違いない。
片桐は笑って彼女を解放したが、彼女もまた、笑顔だった。
荷下ろし作業をしていた周りの科員も、その様子を横目で見て、笑う。
俺に写真の才能は無いけれど、もし俺がカメラマンなら、
きっとこの場を撮影するだろう。

写真のタイトルは。




「・・・・さん、お帰り」




再会、だ。




******




漸く、自分で自分の語調に調整が効く様になって、
やっと迎えの言葉をかけた俺に、
振り向いた、2週間ぶりの彼女は、

南の陽に白い肌が透けて。
大きな瞳は真っ直ぐに俺を見つめて。
華奢で細い指は最新式のカメラを抱き。

「菊池さん!お出迎え、ありがとうございます」

彼女を表す、その3文字の形容詞を、寸での所で思いとどまる。
俺は何を考えているんだ。
仕事を終えた記者の1人に、洋介にしたのと同じように、
労いの言葉をかければ良いだけなのに。
やはりどうも、熱い南の太陽に、どこかやられてしまっているらしい。

「無事で何よりだ、何か危険は無かったか?」

「はい、草加さんが気を配って下さいましたから、」

災害取材より安全な仕事でしたよ、と、彼女は笑う。
そういえば、洋介と共に、草加も同行していた事を、俺は失念していた事に気づく。
気を配っていたとは、どういう事だろう。
特別、何かされたのだろうか。
重くて冷たい、しかし、何か解らない感情が、薄らと俺の心臓を包む。

「疲れていないか?もう今日は出航しないから、休むと良い」

ほんの少し冷えて重たくなった気持ちを無視して、言葉を続けた。

「いえ、もう次の撮りなんです、東進丸を写し切らないと」

記者と言うのは、もしかしたら俺たち自衛官より、スタミナがあるかも知れない。
この細く白く小さな体の、どこにこれ以上の体力が備わっているのか。
あの洋介ですら、今は一旦部屋に戻って、束の間の休息を味わっていると言うのに。
ずっと艦に居残りで、殆ど何もしていなかった片桐と、
彼女は戻ってくるなり、同じ量の仕事をこなそうとしている。

少し前に読んだ、誰だったか、若い編集者のエッセイ小説を思い出した。
締め切り前は、例えどんなに老齢であろうと、どんなに疲れていようと、
会社に泊まりこみ、二徹、三徹は当たり前。
着の身着のまま不眠の戦いは、まるで陸自のレンジャーだ。
出版に名を連ねる、目の前の彼女も、その種の人間なのだろうか。

長い睫毛が作る、白い頬の影と、
柔らかく微笑む、華奢な肩に。

とてもそんな力があるとは思えないけれど。




「無理せず少しは安め、あなたは艦に慣れていないのだから」

まだ仕事の残る彼女を、これ以上引き止める訳にもいかない。
俺は思い切り、陳腐で無個性な一言で、締めくくってしまった。
もっと気遣った言い方があるだろうに。
どうして俺の声帯は、肝心な時に、良い言葉を紡がない。

危なっかしい足取りで、接舷したもう一方に移る、小さな背中を見送る。
俺もCICへ戻らねばならない。青梅に告げて来た休憩時間は、もうあと2分も無い。
それにしても、南の日差しは暑い。
こんな短時間で、既に体温が上がっている。
普段が、陽の当たらない仕事場だからだろうか。
いつも外にいる康平などの航海科には、全く頭が下がる。

戻ったCICは、空調が効いて、光量も調節され、快適だった。
インカムを装着し、無数の光点と点線の入り乱れる画面に目を戻した。
しかし、ふと、気づく。

本当に、俺は、南国の陽にやられてしまったのだろうか。




ここは涼しい室内だというのに。

上がった体温が、戻らない。
跳ねる鼓動が、静まらない。
頬が火照る。きっと紅潮している。
考えが、纏まらない。

画面に点滅する光の集合に、無理矢理、視線と思考を移しても。

南国の陽は、とてつもなく強力らしい。
さっきから。




彼女の顔しか、浮かばない。




荷下ろし作業も、2時間で完了し、
2隻並んだ、過去と未来の船と艦は、
椰子とマングローブの林の中、
沈み行く南の太陽の下、凪の波に揺れる。

時刻はフタマル、サンマル。
昭和の船から、風に乗って、どこか懐かしい歌が響いてきた。




    




〜百万の言葉でなく・・・・目の前の後書きだ〜

んなこたーないよ。

菊池雅行35歳。運動不足から熱射にヤられる、編。どんだけ?30も後半、加齢の階段上る、君はまだ、シンデレラ、かい?
前回、IN☆GO!のアレにアレでテンションぶちぶちになったので、落ち着く意味も込めてメガヌ熱射病、お大事に
冒頭、角松の無駄気回し、本気ウッザくね?こういう子いるよね、ほら、隣、座っちゃいなってー。いやほっといて、的な。

君マ!はメガヌがしょっぱなから出馬してて、たぶん今後も一番長い事ヒロイン絡みで疾走してくれそうな黒毛の3歳馬
まだまだ甘い汁吸わせません!泥水飲め!苦労を知れ!貧乏経験しろ!もうすげえ八つ当たり害虫ですから
バナヌはシンガポでめっきり距離詰めてくれましたが、まあね、今後ね、海鳥で56絡みでさすらっちゃうからね。余分に頭出しです。
メガヌは長くなる分、まだまだ恋って何?キスってレモン味?心に、青い小鳥が飛んでるNO☆そろそろ脳病院へ参りましょう

てかドキドキして彼女の顔しか浮かばなくて言葉に詰まる時点でそりゃお前もう恋じゃねえの、好きなんだよ彼女が!
だっつーのに、それでもまだ熱射のせいにしている35歳なんてまじどんだけ?片腹痛い!脳病院が!すぐそこに!

次回、バナヌが海鳥前のラストスパート、ここで飲まなきゃ男じゃないぜ!ハイ一気一気ハイ!