君はマーメイド!
act.15〜連理の蘇鉄〜
わたしたちは尾行されている可能性がある。遠回りして撒いて帰る。
さん、あなたは1人で先にホテルに戻ってくれ。
今なら玄人女と客だと、思われているだろうから。
帰り際、エントランス前で草加にそう耳打ちされ、
先刻、角松が機転を利かせて、女性の1人がそうしたように、
も、乏しい演技力を最大限に駆使する。
「・・・・今度は、お店に来てくださいね、」
精一杯、プロの女性を演じ、
言葉の最後に、数少ない知識を全力で掘り起こし、行動に移す。
角松のスーツの裾を摘まみ、出来る限りの背伸びをして、
過去に見た、そんな場面がそうしたように、
頬に1度だけ、キスをした。
「・・・・じゃあ、また、御機嫌よう」
他から見て、は、プロの女性に見えただろうか。
口付けた角松の、うろたえ、戸惑ったような表情と、
隣に立っていた草加の、初めて目にする衝撃を受けたような表情が、
少し、気に掛かった。
夜の街を歩き、ホテルに戻ると、
暫くして、雨が降ってきた。
南国の雨は涼しげに空気を冷やし、花と緑を活気づく。
これが雨季、というものなのだろうか。
雨の所為か、蚊や、その他の虫はどこかに消え、
蚊取りの線香を焚かずとも、の部屋は過ごし易い。
草加に贈られたワンピースを脱ぎ、ホテル備え付けの浴衣に着替える。
さすがは日本の占領下とでも言うべきか、やはりアメニティは浴衣なのだ。
部屋付きのシャワーブースで汗を流す。
それから暫く待ってはみたが、草加も角松も一向に戻らないので、
午前1時、は、
白いシーツに、白い足を、潜らせた。
******
「何故わたしじゃないんだ、角松さんが好きなのか?」
角松と草加は、早朝になってからホテルへと戻ってきた。
戻るなり角松は、部屋にこもって熟睡を始めたが、
草加は少し眠ってから、朝食の用意されたビュッフェ、
まるで、が来る事を予知していたかのように、
その対面に腰を下ろした。
そして、お早うも言わずの第一声が、これだった。
「・・・・は?何、どういう、わたし何かした?」
大きな窓から朝陽が差し込み、ビュッフェは旅行者や軍人たちで賑わっている。
種類に差こそあるが、バイキング形式の朝食は、未来のそれと同じだ。
日本からの次に、ドイツからの客が多いのだろうか。
炊かれた白米の隣に、弱発酵のライ麦パンや、味噌汁の隣に野菜のスープ、
解り易過ぎるが、ソーセージや黒ビールも備えられていて、
は以前に、もちろん未来で旅行した、バリ島を思い出した。
その時泊まったフランス系列のホテルは、日本からの客が多く、
日本人といえば白米、味噌汁、納豆、更には熱帯魚をさばいたような物もあって、
習慣の違いによる相互理解が、いかに難しいかと、その時感じた。
いくら日本食でも、熱帯魚は刺身にしない。
草加は、多国籍に連なる料理の列から、
白米と味噌汁、それから何種類かの小皿、そしてコーヒーを卓に並べていた。
細身に見えてもやはり軍人だ。
は朝から大量の食事をするのを好まない。
例に倣っても、未来の若い女性にありがちな、低血圧の持ち主だからだ。
フルーツジュースとヨーグルトだけが、目の前には置かれている。
「昨夜の別れ際だ、わたしの方が近くに居たのに、何故、」
草加の表情は、元よりかなり読み取り難い。
しかし今は、何となく解らなくもない。
やや不機嫌なのだろうか。
「草加さんは照子さんに挨拶されてたから、わたしは角松さんにしただけだよ」
草加は、人柄に似合わず、かき込むように食べる。
それに胸やけを思いながら、もジュースに少しずつ口を付ける。
いつだったか、尾栗に、艦乗りは早起き早メシ早便所、と教えられたのを思い出した。
「でも近くに居たのはわたしだ、それに、いくら演技でも、頬に口付けるなんて」
の前にある2品は、まだ3分の2以上残っているが、
草加の前にある幾品は、もう殆ど終わりに近づいている。
「演技に自信が無かったから、少しでも信憑性を持たせようと思って」
「そこまでしなくても良かった、
あれでは、角松さんの事が好きだと勘違いされても、仕方ない」
「別に、演技だし誰に勘違いされても困らないよ」
「・・・・困らないのか?」
「うん、演技だし」
ヨーグルトにはフルーツが混ざっている。
1つ1つ口に入れながら、草加は既に食事を終えて、
コーヒーに口を付けているのに気づいた。早メシ、とはこの事だ。
草加を待たせるわけにもいかない。
も心持ち、食事のスピードを上げた。たった2品だけれど。
コップを傾けるを、草加は注視して。
「・・・・さん本当に、誰に、勘違いされても困らないか?」
窓から差し込む朝の光に、色素の薄い草加の瞳が、鳶色に照らされる。
解り難い感情が、不安、を示しているのを、は初めて見た。
その鳶色の不安は、未だを視線で射抜いて。
「例えば・・・・わたし、とか、だ。」
どういう意味。
混乱した脳内は、1つの結論に至った。
「・・・・角松さんに奥さんがいるから?
わたしが好きになれば、みらいの科員さんに良い噂流れないって事?」
草加は黙ったままだ。
のコップとボウルは、やっと空になった。
推論の正しいかは判断できないまま、言葉を続ける。
「大丈夫、それは絶対無い、草加さんが吹聴して回るとも思えないしね」
がそれを、全否定したにも関わらず、
草加の機嫌は、あまり上昇したようには見えなかった。
それが、何故であるのか。には最後まで解らなかった。
******
借り入れた輸送船、東進丸の出港は明日の夜。
今日1日は、観光風に言うところの、終日フリーだ。
「さん、昼間の街を撮りに行かないか、天気も良い」
ビュッフェを出た頃には、草加は気持ちを入れ替えたらしく、
先刻の不機嫌は影をも見せずに、を街に誘った。
あの低下の様は、何だったのだろうか。
単に朝だから、だろうか。まさか。低血圧でもあるまいし。
誘った草加が、軍服ではなく一般的な私服を着ていたので、
も昨夜贈られたワンピースに、もう1度袖を通した。
襟元に、ピンカメラを隠して。
「・・・・あ、角松さんも誘った方が良いかな」
「まだ暫く寝ているだろう、それに角松さんは、男だ」
「え?」
「後から1人で出歩いても、あなたより危険は少ない」
この時代背景的に、それは尤もだとは思って、
「あ、じゃあ私も、スーツ着た方が良いかな」
あらゆる危険要素が、少しでも減れば良いと提案あいたが、
何故だかそれには、反対された。
ホテルのエントランスを出ると、
午前の、南国の太陽が、燦々と2人を照らした。
今日は休日なのだろうか。
それ以前にここ昭南市では、平日と休日の太陽暦を使用しているのだろうか。
歩き出した街は、昨日よりも人通りが多い。
「今日は軍属という設定では無いな」
少しだけ人密度の高い街で、草加は少しだけ先に歩いてから、
思い出したようにを振り返った。
そして、手を、差し出した。
「・・・・夫婦、で良いだろうか」
手を繋いで歩くのは、にも少し恥ずかしい。
握った手は温かく、しかし、隣を歩く草加の表情は、
逆光に、窺い知れなかった。
東進丸の出港まで、あと10と数時間。
襟元に隠した、デジタルのメモリーに、
椰子と、蘇鉄と、昭南の太陽が、
記録された。
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〜アタシ、昭南楼の後書き、よろしくね〜
照子さーん!照子さん!ぶっちゃけ今回、彼女の役をヒロインに代打して、津田から救出シーンを入れようかと思った。
でも・・・・無理だった。全国1億総照子さんファンに絞め殺されるよ。外伝も無意味だよ。ということで折衷案に。
でもこれが意外にラッキーパンチ!マットに倒れてKO!誰を?草加をさ!ジェラスィー。炎と書いて。ジェラスィー。ラッキー。
照子さんは代打で、ジェラスィは他の男と踊った事に、のプロットだったんですが、書く時点になって変更。ラッキーパンチ!
こっちの方がより煽られね?あれ?この害虫だけですか?KO!マットに!ぶっ倒れろ!這いつくばって死ね!うす!
角松!な、お前、ちょ、オイシイとこ取りじゃねえの!最高!菊池も草加も、ヒロインからチッスなんて貰えて無いのに。
ドリに出馬しないキャラが、5馬身も抜きん出たのは初めての経験です。夏!初めての体験!HARE☆NCHI!ポップに。
久々の、ヒロイン視点で3人称。あ、一句詠めた。無意味。詠んでる場合じゃねえっつの。KO!サップ!パイプ椅子でいけ!
ヒロイン視点は、草加やら菊池ほど言葉選びにも迷わないし、色々脱線できて楽しい。脱線!JR西!危険だやめようこのネタ。
バリ島のホテル、低血圧、終日フリー、太陽暦。2ちゃん風に言うところのガイシュツ単語ばかりで!RAKU☆CHIN!ポップに。
熱帯魚の刺身の話はマジだヨウソロー。破壊力ある味したヨウソロー。軽いトラウマだヨウソロー。
またもや原作にみっちりリンクのニアミスじゃねえの!楽しい!人生!明るいよ!
草加とヒロイン、2人で出かけてる間に、角松1人で冬馬くんと外伝わくわく不発弾処理ツアーです。終日フリー!ハイ鳩出しまーす。マギー!真司の方!
次回、豪華客船クイーントウシンマル!お客様ペットのご同伴はご遠慮します!え、あ、人ですか?あ、津田ね。犬かと。