俺たちブルーミンズ!
1発目:パールナイトフィーバー!





ガス灯の明かりが、銀座の町を照らす。




午後8時、文明開化は日本を、日々少しずつ、夜行性にしている。
少し昔は、日が暮れれば商店は暖簾を下げ、
人々は、家族の待つ家路を急いだというのに。
今や、日が暮れても、商売人は声を上げ、街は街灯が明るい。
このままいけばもしかすると、これから50年後100年後、
昼と夜の区別など無くなり、人は寝る時間が無くなるのではないだろうか。

「星君、君、もし眠る時間が無くなったらどうするね?」

「・・・・は?陸奥先生、もう眠いのですか、まだ8時だ」

「いや、陸奥の事だから、また何か奇態な想像でもしたのだろう、なあ」

奇態と言われれば、そうかも知れない。




鉄道馬車と人力車、物売りや大道芸人の行き交う明るい街を、
俺は、2人の知人と共に、最近流行りになった舞踏場までの道を、歩く。

長身に、英国製の布地がよく似合う、と、仕立て屋にも褒められた。
それはそのはずだ。
こんな燕尾服だろうと、着流しだろうと、生まれてこの方服を着て、似合わぬと言われた事は無い。
15で吉原入りして、今年で丁度、15年。
幕末から、遊び歩いた新地深川堺町、居並ぶ花魁を総ざらえ、まさに粋。

俺。
陸奥 宗光。

しかし、最近、どうも。
粋の具合が、宜しくない。

深川の喜美蝶、旭の雪弥、吉原の高千穂には只で来いとまで言われ惚れられたのに。
なかなかどうして近頃は、誰に逢っても、どこかつまらない気がしてならない。
長年に渡る悪所通いに、体が飽きてしまったのだろうか、まさか。

そんな、どこか物足りない気分を引きずったまま、時は流れ、文明開化。
旧友伊藤に連れられて、鹿鳴館入りを果たしたのが、ついこの間。
商売人が贅を競って、立て続けに建つ、夜の社交場に通えば、
この物足りなさを埋める、新たな刺激はあるのだろうか。

「・・・・江戸の高下駄喰い飽きて、探さん風流、鹿鳴館、かな、」

「・・・・今ひとつだな、錆び付いたんじゃないのか、陸奥」

「そうかも知れん」

呟いた俺の一言に、伊藤が、からかって品評した。




右隣を歩く、俺よりも少し背の低い、黒と灰色の燕尾服は、

伊藤 博文。

もう何年になるかの、朋友と言うよりは悪友に近い。
伊藤は、俺が粋で女にももてると、ひやかした事が幾度もあるが、
それは単なる嫌味でしか無い事は、長い付き合いが物語る。
この、いかにも優しげで学者然とした物腰、柔らかい言葉は、
損得計算の早い頭と、真っ黒い腹から成っている。

いつだったか、とある置屋の女が、俺と伊藤でかち合った事があった。
わっちは生涯、陸奥さんだけでありんすえ、と涙ながらに語った女。
しかし最終的に、操の証しである小指の爪が贈られて来たのは。

伊藤だった。

陸奥は他にもたくさん居るから、手堅く僕にしたのだろうさ。
殊勝にも語った瞳は、まさに勝者の微笑み。
それから伊藤とは、抜きつ抜かれつで、鼻の差の争いを繰返している。
今日も、新しい舞踊場に誘ったのは、星だけだったはずなのに、
どこから聞いたか、新調のイブニングまで着込んでついて来た。油断ならない。

もう一方、左隣を歩く、俺と並ぶ長身の、紺の燕尾服は、

星 亨。

俺を先生と慕う内の1人だが、
本人も、幾分柄の悪い事務所の面々には兄貴と慕われる、弁護士。
硬派で気風の良い男だと俺は思うが、何分、本人に自覚がまるで無い。

いつだったか、女っ気の無い星に、俺が気を利かせて、吉原一番の店に連れて行ったときだって、
肌も絹のような新造が、手をこまねいて待っているのに、
年増の、花魁ともやり手とも区別のつかぬようなのばかりと飲んでいる始末。
しかしどうして、女というのは、冷たい男に惹かれるものか。
わっちは、星さんてな冷たいけれど、どこか気になりんすよ。
げい花魁、それは俺といるときに言う言葉かい、やれ、切ない。
涙本風に洒落てみても、1月も経たぬうちに、振られた。この俺が。

華族でも士族でも、どこでも良いから早く結婚して、家庭を持てば良いと、
思い遣りの影に画策を隠して、いつも星に繰り返し、
今日もこうして夜の社交場に連れては来たが、果たして如何に。

「両先生、この間うちの若いのから、舶来のシガーを貰ったんですよ、今度どうですか」

のん気に煙草と男友達の話をしているあたり、
どうも、期待できそうにない。




文明を明るく照らすガス灯は、大通りを光で包み、
その先に、やっと目的の社交場が、一際眩しく光って見えた。
英吉利から、わざわざ取り寄せたと言う、意匠の凝らされた樫製のドアーが、
両側から、良く教育された守衛の手によって、開かれる。

「うん、悪くない、陸奥、原君と小村君も呼べば良かったな」

「次回は連れて来よう、尤も、小村君あたりは、呼んでも来ないだろうが」

1歩、足を踏み入れると、
音楽隊の演奏が、鮮やかに鼓膜を叩いた。

ワルツだ。




******




舶来のシャンデリヤと、着飾る女たちの煌きで、
建物内は昼間のように明るい。

音楽隊の演奏を肴に、星、伊藤と共に、
壁際の長椅子で、何とか言う赤紫色の洋酒を傾けていると、
ふと俺に、男の声でお呼びが掛かった。何だ、男か。少しだけ落胆を思う。

「・・・・陸奥宗光さんでいらっしゃいますかな?」

声の方向を見遣ると、高級そうな黒色の燕尾服に身を包み、
まるで英吉利紳士然とした、豪勢な口髭の中年が、俺と、他2人を、伺っていた。
至急心中で、今まで見知った人間の、名前と顔の一致表を検索する。
しかし、こんな知り合いは、その表に掲載は無かった。

「いかにも、私が陸奥ですが・・・・失礼、どこでお会いしましたか、一寸、」

「いえ、お初にお目にかかる、古河君からお名前をお聞きしていてね」

古河君、とは、まさか、彼の古河財閥の事を指すのだろうか。

うだつの上がらぬ田舎出身の、俺や原、小村の、政治活動を、
経済的な面から支えるその財閥は、古河市兵衛。早い話が後援者だ。
政治にしろ、飯にしろ、芸者遊びにしろ、金が無ければ始まらぬ。
俺たちは、古河殿への恩には、上げる頭が見つからない。

 浩史と、申す者です。いや、陸奥さん、お噂はかねがね、」

ぜんたい、古河某は、俺に何の噂を立てているのか。
その品良く微笑む口髭の、古河財閥と関わる経済力を期待して、
今後の付き合いを夢想しながら、俺も、社交の意味での微笑みを返した。
全く、歳を取ると、妙に浅ましくなっていけない。

「小生などを、お見知り置き下さったとは、恐縮です」

居並ぶ華かんざしを、悉く篭絡していった俺の笑みは、果たして男にも効くだろうか。

その後、、と、名乗った男は、
英吉利紳士と遣り手商人の合わさったような面持ちで、
俺と、その場にいた伊藤、星に、簡素ながら挨拶と、自己の紹介をした。

欧州への商談から戻ったばかりでね、少し見ぬ間に日本は変わった。
もちろん、良い方にだよ、うん、陸奥さん方の御維新のお陰だろうか。
10何年もあちらにいたから、悪いが日本は湿っぽくていけないと高を括っていたんだ、
それがどうだ、ダンスホールやバーまであるじゃないか。
英吉利には支社を構えてきたんだ、今後貿易は伸びるだろうからね・・・・

聞けば、総資産何十万の、大企業。
しかも、元は公家の、誰それが出身。
更に、政界への投資にも、興味があるとかで。

「いや、嬉しいね、こんな所で、古河君に聞いていた、諸先生方にお会いできるとは」

最初に挨拶されたのは、俺一人であったはずなのに、
最終的に対象が、伊藤や星まで入っていたのは、この洋酒の見せた幻覚だろうか。
浅ましい根性もひた隠しに、社交の笑顔は飛び交った。
もっとも、星などは笑顔が下手だから、多少引きつってはいたが。

そして紳士然と氏は、思い出したように、

「そうだ、私の娘もご紹介したい、」

広間に目を向けて、手を上げ、名を呼んだ。




「・・・・!」




音楽隊のワルツに揺れる人垣から現れた、その小さな影。

「はい、お父様」




目を、奪われる、という比喩は、
単なる比喩ではないという事を思い知った。
そして、それは目だけでなく、言葉と。

心も。




******




いや、お恥ずかしい話ですが、妻に先立たれてからは、この子が私の唯一の宝でしてね。
欧州では何でもやらせました、学校も、社交界も、事業の方の手伝いも、
手前味噌になってしまうな、ですが親の私から見ても、出来た娘でね。
しかしまだ日本に慣れていないので良くない、
宜しかったら今後も、私共々、良いお付き合いを・・・・

英吉利紳士は突然、子煩悩な親馬鹿に変じて、
布袋のように目尻を垂れて、隣に立つ娘の紹介をしていた。

しかし。




もう夜半を回った銀座の街は、流石に暗く、人通りも少ない。
漸く家路に着こうとする、着飾った夜光虫を乗せた、人力や馬車の、
車輪が石畳を叩く音だけが、藍色の空に響く。

英吉利か伊太利亜か、たぶんどこだか名のある仕立て屋が、
意匠を凝らして作った、最先端のレースのドレス。貝ボタン。
真珠のような肌と、ガラスのような瞳。まるで陶器人形だ。
はい、お父様、と、一言だけ聞いた柔らかい声は、鈴の音も恥じ入るような。

「・・・・何だか、少し酔ったらしい、あの洋酒の所為かな」

「寄る年波じゃないのか、君も今年で三十路の戸を叩いたから」

軽口を叩く伊藤を無視して、
車を呼びましょうか、先生、と気遣う星には丁重に断りを入れた。
どうも、少し夜風に当たりたい。頬が火照って仕方ない。まさか歳かな。




シャンデリヤの元で出会った、舶来の、陶器人形。
今まで出会った、釣灯篭の元の、どんな雛人形より、それは。




俺。
陸奥 宗光。

最近どうも、粋の具合が宜しくなかった。
誰に逢っても、どこか物足りない気がしてならなかった。
心の小鳥が逃げたようだ、とは、ゲーテだったかワーズワースだったか。
空っぽだった、俺の空。
今夜、流れ星のように、1羽の小鳥が滑空した。




舶来陶器の、真珠色をした、小さな小鳥。




男3人の、革靴が、銀座の静かな石畳を叩く。
ガス灯も消えた夜の空は、無数の星座が白く瞬く。
瑞西製の懐中時計は、規則正しく午前1時を刻んでいる。
そして俺の脈拍は。




時計よりも、音高らかに、乱れ打っていた。




    




〜徒然なるままに日暮し、パソに向かひて、心にうつりゆく後書きをそこはかとなく書きつくれば、弱脳こそものぐるほしけれ〜

歴史に詳しい方の閲覧を断固拒否します。詳しく無くとも拒否します。何だこれ。無意味?うん。すこぶる。

ッッッッカー!ヤっちまった!毎回毎回新ドリ始めるときはこの一言に尽きるね!ヤっちまった!毎回毎回猛省だよ!あざーす!
明治のアイドルシビリアンに恋心狙撃されてまさにスナイパー!スイス銀行に恋文3千通!ゴルゴも頬赤らめるわ!
本文もさることながら、タイトルと副題、これが一番頭痛かった。否、脳が弱かった。あ、それはいつもの事か。知・っ・て・る・よ!
泥酔しながら考えた別案「プアー☆ザ☆ピュアー(1発目:君にコイするワンコイン)」があったんだけど。弱脳だね。うん。
別案は貧乏臭で鼻が曲がりそうだったので却下。でも決定案もイマイチしっくり来ず。そのうち変えるかも。ザ☆テッキート!

身分弁えず図々しくも害虫の分際で偉そうな話しても良い?許して。今日だけ。無礼講。飲めよ!
ジパ夢「君マ!」の、連作共通テーマは「ドキドキ」です。心してます。
ジパ夢「キャン☆キャン」の、連作共通テーマは「キラキラ」です。褌締めてます。
銀英夢「ガラ十」の、連作共通テーマは「センチメンタル」です。切腹裃です。
そんで、今回の明治夢。連作共通テーマは「ゴージャス!」にしようとか。しないとか。どっちだよ。早く腹斬れ。あっざーす!
サブテーマは「ノスタルジック」、「百花繚乱」、サブサブくらいに「宝石の花束」、「セレブ臭」、かな。何だよもう。脳が瀕死です。

まじこのメンバーでどんだけゴージャスでやってけるのか甚だ不安。この苦学生ども!愛しいわ!愛情捻じ曲がってる!
関係無いけど今回ローテーションすんの5人だからね。ちょっと心が楽。最高記録の7人(ジパ)はたぶん当分鉄壁。

とりあえず動いてくれそうなところから、で、陸奥1人称。やっぱ楽だった。俺様キャラはすべからく一人歩き。滝、ロイ、然り。
次回、堅物純情苦学生をピンクのラビリンスにぶち込みます!秘書!ちゃんと働けよ!ドリのために!