都会のビルの海じゃ 感じなくなってるキミを
冷えたワインの口付けで 酔わせて とろかして
差し上げましょう。
HOT LIMIT
勇気を持って、俺らしく、堂々と挑めば良いのだ。
春にしては暖かく、天気の良い月曜の昼休み。
ビッテンフェルトはラインハルトの執務室への廊下を、
風を切るような大股で進んでいた。
土曜の夜にロイエンタールから聞いた、あの話を真偽を確かめるために。
ビッテンフェルトの、まるで前線に位置した戦艦の真っ只中にいるようなその形相に、
すれ違う者々が、挨拶をも躊躇わせる。
大きな木製のドアを、ノックもそこそこに叩き開け、
ビッテンフェルト大佐です!ラインハルト少将閣下にお目通り願いたい!と大声を張り上げた。
「・・・・これは。ビッテンフェルト大佐、そのように剣呑に。何用か?」
美しいには美しいが、いつもの慇懃無礼な態度で、
青年と言うにはまだ若すぎる、金髪の少年少将は、
外に食事に行く予定だったのだろうか、軍服の上着を着直している最中だった。
隣には案の定、彼の友であるらしい赤い髪の少佐がいる。
赤毛の少佐以外にも、
ラインハルトの執務室では補佐官や副官、近侍などが何人か働いているが、
それは総じてラインハルトと然程年齢に差が無く、
一番下は15歳、一番年長でも23歳という軍部一の低年齢である。
これはラインハルトの若さに気を利かせたか、または皮肉った人事部が、
毎回の人事異動でわざと若年の者をラインハルトの傍に置くからだ。
ラインハルトの出世を良く思わない者などは、
これを嫌味で、ラインハルトの執務室の事を『士官学校の教室部屋』と陰口を言う。
学校を出て間もないような近時が、お茶のカップを片付けながら、
ビッテンフェルトの剣幕を、恐る恐る見守っている。
「閣下にお尋ねしたい事があって参りました!」
「そうか。言ってみろ」
優美な少年提督はビッテンフェルトよりも背が低く、歳も二桁近く差があるが、
見下すような仕草で、その陶器のような首を傾げた。
問うことを迎えられたビッテンフェルトは、さっそく本題に入った。
「閣下!もしくはキルヒアイス少佐!
お二人には・・・・美しい恋人がいないか?!
たっぷり10秒、否、それ以上だろうか。
宝石のような蒼い目と、空のような青い目が、驚きと疑問で同時に見開かれ、
トレイを持った近侍は、部屋の奥でがしゃんと危険な音を立てた。
一瞬、その問いにあっけにとられたラインハルトではあったが、
すぐに普段のふてぶてしい態度に戻り、目だけで笑みを表現した。
キルヒアイスは隣で、未だその驚き呆れた感情を隠しきれてはいない。
「・・・・何を言うかと思えば、恋人だと?卿はおもしろいことを聞く」
「答えていただきたい」
「何を考えているのかは知らぬが・・・・私にもこのキルヒアイスにも、
恋人と呼ぶような女は過去にも今にも一人もおらぬ」
ラインハルトの明瞭な答えに、
ビッテンフェルトは握り締めていた両拳をゆっくりと解いた。
「・・・・そうか、良かった・・・・」
あからさまな安堵の態度を見せたビッテンフェルトに、
キルヒアイスは嫌な予感に駆られた。
まさか、このオレンジの髪の大佐は、自分かラインハルトに、
性別を越えた愛情とやらを持ち合わせてでもいるのだろうか。
聞く所によると、知り合った事は無いが、女性より男性の多い軍という職業柄か、
そのような趣味の人間も、多少なりとも存在するらしい。
だが、自分にもラインハルトにもそのような趣味は皆無であるから、
こんな予感が当たってしまって、面倒な事にならなければ良いと、
キルヒアイスは心の中で切望した。
「・・・・そうでありましたか、いや、失礼致しました、変な事をお尋ねしました」
「失礼ですが、なぜそのようなお聞きに?よろしければお聞かせ願いたいのですが」
1秒でも早く、この嫌な予感を払拭したいキルヒアイスが、珍しく割って入った。
少なからず同じ事を思っていたらしいラインハルトも、ビッテンフェルトに視線を投げる。
「ああ、私事で悪いんだけどな、俺が最近知り合った女性と、
お二方が一緒に居るのを見たと言う奴が居て・・・・まさか、どちらかの恋人なのかと。
いや、恋人じゃないならいいんだ!俺にもチャンスはあるな!」
ビッテンフェルトの晴れやかな笑顔に、
キルヒアイスの心中は春風が吹いた。
「お忙しいところお邪魔しました!では失礼!」
心持ち紅潮し、弾けるような笑顔をたたえて、
ドアを壊れる程の勢いで開閉し、オレンジの猛将は、部屋から颯爽と姿を消した。
窓から春の日差しが差し込み、急に静かになった執務室で、
ラインハルトとキルヒアイスは、顔を見合わせた。
おれたち二人が、一緒にいた女性?
二人の間に、更に嫌な予感が生まれた。
姉アンネローゼ以外に、一緒にいるような女性は、
ただ一人以外に、思いつかない。
__________
は、耳の下で二つに結んだ銀髪を揺らしながら、
自分の執務室から正面門までの道を歩いていた。
月曜の今日、フェザーン駐留1年分事務報告で、昼までの時間が過ぎてしまった。
午後は、本国にいない間に溜まりに溜まった書類の処理に追われるだろう。
気分転換でもしないといられないと、は外での食事を決めた。
昨日1日酔いつぶれたお陰か、またはキルヒアイスの慰めのお陰か、
ラインハルトへの気持ちや、オレンジ色の髪の青年に嘘をついた後悔も、
今日の朝にはかなり心の整理がついていた。
銀河帝国軍オーディン本隊営は、皇帝が住まう新無憂宮の約1.7倍の敷地内に、
通常執務を行うための、コの字型5階建ての旧館。
それに繋がる形で、式典や集会を行う、2階建ての新館。
旧館の裏手に、訓練を行うための広場型演習場と屋内運動場がある、緑館。
緑館に沿った並木道の先にある兵士の住居、オーディン官舎で成り立っている。
改築や増設を重ねられた建築は、俯瞰すると学校のように見える。
部隊の違うの執務室と、ラインハルトやキルヒアイスの執務室は、
コの字型をする旧館の両端にあって、通常ならばほぼ顔をあわせる事は無い。
普段の昼休みならば、中心にある食堂で、全ての部隊が一堂に会す事になるが、
は今日、その可能性も消して、昼休みに外に出た。
だいたいの気持ちの整理はついたものの、まだ顔を合わせたら、何を話して良いのか解らない。
や、ラインハルトが、もう少し大人であったなら、何か良い対応もできるのだろうか。
17という年齢が、を金曜の事件から目を背けさせていた。
外に出ると、風も優しい春の日差しが、と、広場に咲く花を暖かく照らした。
ほとんど本部に帰ることが無いの、銀髪とその美しさが珍しいのだろうか、
正面門に沿った並木の、木陰のベンチで休憩していた兵士たちが、一斉に視線を向けた。
あんな美人いたか?髪で階級章が見えないな、どこの配属だろう?綺麗だな。
方々から囁きや、あからさまな興味の言葉が漏れる。
それを少し恥ずかしく思いながら、は門までの道を早足に歩いた。
急に。
天気の良かった空に、いきなり、雲が翳ったのかと思った。
だが、そうではなく、
背の高い影が、の目の前に現れたのだ。
「失礼ですが、・さんですか?」
「はい?」
見上げるという動作が正しかった。
キルヒアイスと同じくらい背の高い、黒髪で軍服の青年仕官が、
水が流れるような流暢なバリトンで、を呼び止めた。
肩に留められた階級章は3つ星に2本線で、准将。
胸元に、太陽と羅針盤がモチーフのピンがついているから、戦艦隊らしい。
驚いたのは、彼の瞳が、青と黒の、左右色違いであったことだ。
サファイアと黒曜石のような、美しい輝きに、はしばし見とれたが、
すぐに気を取り戻して、応答した。
「は、はい。諜報局副総監・大将です。・・・・失礼ですが、あなたは」
このような美しく珍しい瞳の持ち主は、の知り合いには居なかった。
男は、優しげだが、どこか聞き手を緊張させるような話し方をする。
「いや、失礼。大将閣下でありましたか。
私は第4艦隊副参謀長でオスカー・フォン・ロイエンタール准将と申します。
先日、私の同輩が閣下にご迷惑をおかけしたようで」
は、思い起こす。
先日と呼ばれるような最近、軍人から何か迷惑を被ったようなことがあっただろうか。
「ご同輩が?・・・・ちょっと覚えが無いんですけど」
「オレンジの髪の小汚くてやかましい男で、
ビッテンフェルトと申す者なのですが、ご存知ありませんか?」
の記憶は急速に明瞭になった。
土曜の午後!
黒色槍艦隊のビッテンフェルト!
が嘘をついてしまった相手!
「ビッテンフェルトさん!ご同輩でしたか!そんな、迷惑なんて何も!
・・・・というか、あの、あたしの方が迷惑を、かけたかも・・・・」
迷惑なんて甘いものでは無い。大嘘つきだ。
「閣下の方が?存じておりませんでしたが・・・・よろしければお聞かせ願えますか?」
は、腹を括って、土曜の話を彼、ロイエンタールに聞かせた。
心の中でキルヒアイスが、昨夜の言葉を繰返す。
『心から謝れば伝わりますよ』と。
「・・・・あの、ごめんなさい、
悪気は無かったんですけど、訂正するタイミングを失ってしまって・・・・」
「いえ、それは閣下がお謝りになることではありませんよ。
むしろ奴が勝手に先走ったのが悪い。捕まえて謝罪させましょうか」
をフォローすると同時に、完膚無きまでにビッテンフェルトを扱き下ろす、
ロイエンタールのその言いように、は純粋に可笑しくて笑った。
ビッテンフェルトが、同僚は気安い奴らだと言っていたのは、このことだったのかもしれない。
「・・・・銀髪に銀の瞳の美しい女性だと聞いておりましたが、
声をおかけしたら、まさかご本人だとは。偶然とはあるものですね」
ロイエンタールは臆面も無くすらすらと褒める。
世辞か本意か、聞いているの方が、照れてしまいそうだった。
「わたしも、まさかビッテンフェルトさんのご同輩だとは思いませんでした。
でもありがとう、話してしまって、肩の荷が下りた気がします」
「奴のために肩に荷など背負う必要は、万に一つもございませんよ。
・・・・ところで、閣下はこれからお食事ですか?」
「ええ、ちょっと外の空気を吸いたくて」
「奇遇ですね、私もです。・・・・よろしければご一緒させて頂けませんか?
自分一人のために車を出すのは、多少手数と思っていたのですが、
閣下とのお食事のエスコートでしたら、一個艦隊をも出動させます」
「ふふ、ありがとう。では艦隊ではなく普通の地上車をお願いできますか」
「御意に、ありがたく存じます。不肖ロイエンタール、閣下のために微力を尽くします」
しばしご猶予を、そう言って、ロイエンタールは将官用の駐車場まで車を出しに行った。
准将なら私用でも公用車を出せるのに、わざわざ自車を動かしてくれるらしい。
燦々と日の照る真昼間に、あそこまで上手い口を使われたのは初めてだと、は思った。
世辞であり、社交辞令であるとはわかっていつつも、
は彼の物言いに、頬が火照るのを禁じえなかった。
ハンドルを握るロイエンタールに、どこかご希望はございますかと聞かれ、
お任せしますと言ったところ、大通りから少し外れた、センスの良いカフェに案内された。
オーディンのカフェやレストランにはかなり精通していると自負していたは、
こんな素敵な店を知らなかった、多少の悔しさと同時に、
ロイエンタールはモテるだろうなと思った。
ドアを開け、軍服ではあるがのジャケットを受け取り、フックに掛け、椅子を引く。
その全ての動作が、恐ろしく自然であった。
食事中の会話も上手く、話すよりかは聞き手に回るが、
質問の仕方や相槌の打ち方が絶妙で、つい話し手であるを饒舌にする。
は仕事柄、人から話を聞きだしたり誘導したりすることも多いので、
ロイエンタールのその所作を出来るだけ盗み取るように、食事中ずっと見入っていた。
帰りの車内で、ハンドルを握りながらロイエンタールが話を振った。
「閣下は、身分違いに恋をすることを、どう思われますか?」
車は大通りを、本舎に戻る方向に進んでいる。
「え?身分違い・・・・ああ、解った、最近封切りになった映画の事?
たしか古代の騎士と女王の恋物語だったよね」
1時間弱の間に、ロイエンタールはに、敬語を使わず話させる事に成功していた。
「・・・・ええ、まあ。閣下はもうご覧になりましたか?」
「ううん、まだ帰ってきたばかりだし。これから見たいと思ってるんだけど。ロイエンタールは?」
「いいえ、私もまだです。気になってはいるのですが」
「身分違いの恋か・・・・でも好きになっちゃったらしょうがないもんね」
「私も・・・そう思います」
車は右折して、並木道を進み、本舎の敷地に入る。
正面門までで良かったのに、ロイエンタールは丁寧にの執務室に一番近い西門まで送り、
玄関ポーチに停車した。
「送ってくれてありがとう、楽しかった。偶然だけど、知り合えて良かったし」
助手席に座ったが、心からの謝辞を述べた。
「それは私が言いたい言葉です。
・・・・よろしければ、またエスコートさせて頂けますか。次回は映画も一緒に」
「うん、ぜひ!喜んで!」
午後の日を浴びて西門を進んで行くを見送りながら、ロイエンタールは呟く。
「・・・・これはまた、強敵だな」
遠慮していた煙草に火をつける。
戦艦運営においても、女性関係においても、
新進気鋭と名高いロイエンタール。勝てぬ戦は無い。
簡単には落ちぬ華ほど、それを落とすのには燃えるものなのだ。
吐き出された紫煙が、揺らいで散った。
〜銀河後書き伝説〜限界偏〜
銀河一ヤリチンのハイパーマグナムが起動しました。そう、ロイエンタールよ。
今回の目標はいつもふてぶてしく鬼サドオーラ垂れ流しまくってるロイに、敬語を使わせるというコレ。ユメ。
何とかギリでやり遂げました。もーぼろぼろね。ぐだぐだね。
世間のフロイライン方はロイにお熱の方が多いみたいですが、
如何せん、1ミリもカッコいいと思ったことが無い故に、当て馬的存在として使おうと思ってたんだけんども。
書いてみるとね、コレ。やっばい。ロイ、やばい。あいつやばい。
さすがは銀英界トップの打て打て!危うく落とされるわこんなん。やばいやばい。
ヤリチン入りまーす!喜んでー!居酒屋風に。
本舎の描写とかね、昼休みの設定とかね、地理の設定とかね、あれ全部妄想。嘘っぱちだかんね。
今回もビッテンが阿呆の子に書けて良かった♪まじ、それだけで満足。
次回からもガンガンモテてモテてまいっちんぐな展開にしていきます。夜露死苦!