キャンディ☆キャンパス
6時限目:僕の同僚を紹介します。





最初は、図々しい康平を、雅行と一緒に連れ戻すつもりだった。
でも、最初に会った日と同じ、映画のような笑顔が、
どうぞ座って、今机の上片付けちゃうから、と、
石鹸に似た花のような香りを振り撒いたから。

ソファに座ったときにはもう、もっと話したいと思っていたのだ。




「洋介サンキュ、駅前はやっぱヤンジャンあったのな、舎前のファミマ売り切れててさあ」

康平が、さんの存在を、まるで気にせずいつもの口を聞いて、
俺は一瞬、ひやりと冷たく背筋が伸びたが、
さんは至って普通に、良かったね尾栗くんなどと相槌を打つから、
やはりこの人は、俺の周りにいる大人たちとは、基本的にちょっと違うのかも知れない。

「康平、お前、買いに行かせておいて先に読む気か、図々しいな」

内心不安になりながら、俺もいつもの口を聞いてみたが、
やはりさんは俺たちの会話を笑って流していた。

「ちぇ、良いよ、お前先で、でも早く回せよな、後がつかえてんだから」

「ゆっくり全部に目を通そう」

「あ!ひで、嫌がらせじゃん!ちょ、雅行!こいつに説教してやって」

雅行が、女の子の前で異常に緊張するたちなのは、俺も康平もよく知るところで、
案の定今日も、近しい女の子ではないけれどさんの前で、黙り込んだままだ。
康平が、気を利かせたか、それとも嫌味か、会話を振っても、

「・・・・嫌だ」

胸中は大嵐だと思われるが、それでも顔だけは無表情を保って、
たった一言だけ返して、あらぬ方をを向く。
これだから、せっかく康平が、女の子の居る飲み会やらに誘っても、
冷たい人だと思われて、敬遠されるのだ。
興味が無い訳じゃないんだけど、やっぱり何か、緊張するんだ、すごく不便。
以前3人で飲み明かした時に、酔った雅行が呟いたのを、
つとめて俺たちが気使って、治る様にと仕向けているのに。

これではさんにまで、雅行は冷たい男だと思われてしまう。
案じて俺は、さんの表情を伺ったが、やはり先程ど変わらない視線で雅行に微笑んでいる。
もしかしたら、さんには、とうにばれているのかもしれない。

この大きな瞳は、俺たちの小細工など、ガラスのように見透かしていそうだ。
小細工だけでなく、あるいは俺の視線の行く先も。

部屋に入ってから、俺の目はずっと、さんの瞳を追いかけていて。
知らぬうちに、心臓の音が高まって、訳も解らず視線を逸らした。

さんが俺たちに、わざわざコーヒーを入れてくれて、入室20分。
例えば部活の話、マンガの話、不思議な校則の話、酒の話。
俺の中に増えていく、さんの情報と、
さんの中に増やされていく、俺の情報に、

何でこんなに嬉しくなるのか。

ともすれば、気安くなりすぎる口調を、精一杯敬語に戻して。
今度は最近流行りの映画の話に、かっこいい車の話に、家族の話に、滑り込む。

そしてやっぱり、さんは会話が上手いと思った。
それは初めて取材されたときにも痛感したが、これが大人の成せる技なのだろうか。
今や敬語が危なくなっている俺だけでなく、雅行までも、少しずつ発言数を増やして、
高校の話、サッカーの話、音楽の話。
もう10分も経てば、さんの相槌が、漸くきれいに3等分された。

でも何で、少しだけ悔しさを感じるのか。

ベストセラーの小説の話に、沸きかけた感情を無視した。




そして入室30分。
今クール月9ドラマの話で賑やかな場に。

ノックも無しに、ドアが開いて、
見た事の無い男3人が、入ってきた。




男たちが身に纏っている、スーツと、ネクタイ。それからIDカード。
それは俺たちと、住む世界が違う事を、見た瞬間に見せ付けた。

普段、制服の大人たちしか見慣れていない俺たち3人にとって、
スーツのそれは、異世界を思わせ、一瞬呆けてしまったが、
彼らの名を呼ぶさんに、やっと自分を取り戻し、

「4学年、角松洋介学生であります!初めまして!」

打ち合わせでもしたかのように、3人同時に立ち上がって、挨拶をした。

1番最初に入ってきた青いスーツの男は、背が高く、
彫りの深い、いかにも仕事の出来そうな男で、
挨拶をした俺たち3人に、ぞんざいに、片手で3枚の名刺を渡した。
それには、滝 栄一郎、と入っていた。
俺たちを見るその目が、明らかに邪魔者扱いの目だ。
さんの仕事の邪魔をしているつもりは、全く無かったと言いたかったので、
康平なんかは、よせば良いのに、露骨に、反抗の視線を返していた。

続いて入ってきた茶色いスーツの男は、髪と目の色素が薄く、
顔は優しそうだが、何かスポーツでもやっていたような体つきの男で、
何を考えているのかよく解らない、茶色の目で、1人1人に名刺を渡した。
それには、草加 拓海、と入っていた。
名刺を渡すなり、彼、草加さんは、さんの隣、それもかなり近い場所に座った。
3人掛けのソファは、2人が座って、それでも1人分以上余っていた。
あからさまに近いその距離使いに、なぜか雅行が、目を逸らした。

最後に入ってきた紺のスーツの男は、若く小柄の、
俺たちの見慣れている坊主頭に、気安そうな目をした男で、
礼儀の教科書に書いてあるような、お手本通りの挨拶で1枚ずつ名刺を渡した。
それには、津田 一馬、と入っていた。
元々4人いた部屋の中に、3人増えて、2つの3人掛けソファは、
どうがんばっても1人が座れない。
俺が立ち上がって席を譲ろうとすると、彼、津田さんは、
丁寧にそれを拒んで、作業机についていたパイプ椅子を開いて自ら座った。
年上の人を最下座、しかもパイプ椅子に座らせて、俺は激しく気まずかった。

津田さんが3人分のコーヒーを入れて、
雑談の場だった会議室は、急に記者室に変化して、
防大の一室なのに、学生の俺たちは今、完全にマイノリティだ。
俺たちは、まだこの場に居ても良いのだろうか。

俺の戸惑いを、ガラス色の瞳で見透かしたように、さんが、

「大丈夫、今は会議とかしないから、コーヒー、入れようか」

優しく笑ったその言葉に、
心臓が、暖まるのを感じた。
比喩して気づく。
心臓が暖まるだなんて。
初めて感じた、感情だった。

しかし、存在を許可はされたものの、月9ドラマだった話題は、
俺たちには解らない、社会人の話題にすり替えられた。
大人たちの言葉に、さんが、さっき俺たちにくれていた相槌を返す。
それを悔しく思うのは、立場をわきまえない、俺の増長に過ぎないのか。

、次の本社はいつだ?シー企画の締め切りが近い」

草加さんが、ものすごく近い場所からさんに問う。
それでもさんは、何ら動じていない、この距離感に慣れているのだろうか。
シーキカク、とは、C企画の事だろうか。何か演習の作戦名みたいだ。

「たぶん明後日、ディズニーストアとの打ち合わせは出るよ」

シーキカクとは、C企画では無く、ディズニーシー企画だったらしい。
去年の末に、その時付き合っていた彼女と行った事を思い出す。
冷たい夜空に、炎と花火が綺麗だった。
その子とは、もう別れてしまったけれど。

「あ、先輩、香港の件ですが月末で出発で宜しいですか」

香港。津田さんから、今度はさらに遠い言葉が飛び出した。
世界を飛び回る記者という人種。本当に、俺たちとは住む世界が違う。
俺も康平も、海外にはハワイですら行った事が無い。
雅行は、確か高校の修学旅行がスイスだったとか、他にも経験があるらしいが。

「うん、エア取れるなら。端午節前後は混むらしいでしょ」

「ご心配には及びません、成田支局が印籠利かせて下さいましたから」

「うわ、お世話になったね、お礼行かなきゃ」

エアとは航空券のことだろうか。
タンゴセツ、はきっと香港の年中行事だろう。
その他の言葉は、どう考えても意味を汲み取れなかった。

「津田、香港に行くのなら亀ゼリーを買って来い」

草加さんが割って入る。

「亀、ゼリー・・・・有名な物なのですか?どこで買えば」

「有名だ、どこにでも売っている。空港のDTFに寄れば良い」

草加さんの隣から、今度は滝さんが割り込む。

「草加、きさま、まさか亀ゼリーを食うつもりなのか、好んで」

「いけないか?あれは美味いぞ」

「きさまは舌がおかしい!あれは罰ゲームだ!」

カメゼリーのカメとは、まさか亀の事だろうか。
その味は想像するのも困難だが、色は何となく想像がつく。きっと亀の緑色だ。
罰ゲームの味と言われるくらいだから、たぶん味も亀なのだろう。
亀とはどんな味なのか、やはり想像はつかないが。

話題は俺たち3人を取り残して、
ワシントン、土俵入り、JR、オリコン、英字部、
知っては居るが意味不明の単語を羅列しながら移り変わる。

さっきまで、学校の話、マンガの話、友達の話、ドラマの話に、
1つ1つ相槌と応酬をくれていたさんは、今、
今年の全弦、軽井沢だってね、と、スーツの大人たちに大人の言葉を繋いでいる。

何となく、寂しい、と、感じた。

感じてから気づく。なぜ寂しいのか。

別に、さんは記者だし、
記者にしか解らない単語を使って話すのは当然だ。
別に、さんは大人だし、
大人同士の方が話が合うのかもしれない。
ドラマの話より映画の話より学校の話より、大人の話の方が。
別に、さんは仕事で来ているだけで、俺たちは単なる学生だし。

別に。




入れない会話に、手持ち無沙汰になって、
もうぬるくなっているコーヒーに、口をつけた。




それから少し経って。

誰かの携帯が、バイブレーションの振動を伝え、
社会人4人は、一斉に胸ポケットに手を当てて、それに反射した。
働いている人とは、きっと携帯電話はライフラインだ。
俺たちは特に何も反応しなかったから、スーツと制服に、また距離を感じた。

着信は、さんのものだった。
ちょっとごめんね、と言って、携帯を開く。
残された制服と、スーツたちは、会話の邪魔にならないよう黙った。

「はい、です。カツミ、どうしたの」

さんから発された、知らない、きっと男の人の、下の名前。
俺は、もしかしたら恋人かな、とか邪推をしてみる。
なぜか、不思議と暗い気分になった。

別に、さんに恋人がいても、俺には関係無いはずなのに。

しかしその場のスーツたちが、そのカツミ、の名に、
全員同じタイミングで反応したので、すごく仲の良い同僚なのかもしれない。
だが反応は、必ずしも良いものでは無いと判断して良いだろう。
滝さんなどは、舌打ちしていた。カツミ、さんは、何か問題児なのかな。

「・・・・うん、横浜ね、うん今、大丈夫、2人?カメいる?」

話題は深刻な内容らしい。
今度のカメ、とは、きっと亀では無いだろう。

「・・・・うん、解った、今から行くから、PM来たら話とっておいて」

話を終え、携帯を閉じたさんは、
急に立ち上がって、カメラバッグやパソコンケースの準備を始める。

「おい、どうした、何かあったのか」

怪訝に思った滝さんが問う。

そして制服の俺たちは、その答えに、目を剥いた。




「横浜駅前で神戸系ベンツが8台玉突き、
 マル秘は山口系組員、カメは克己だけど兵隊不足だから、行ってくる」




矢継ぎ早に、先を急いで紡がれたその言葉は、
やはりさんは、俺たちとは別の場所に生きている事を、
嫌が応にも、思い知らされた。

滝さんも、草加さんも、津田さんも、
俺も行くと言って、各々出る準備を始めたが、

「きっとそんなに要らないから、じゃあ、津田くん、来れる?」

ありがたいその同行権を獲得したのは、津田さんだった。

!何で俺でないのだ、俺の方が報道は長いぞ!」

「津田・・・と組んで失敗は許されない、今のうちに辞表を書いておけ」

滝さんは、不当であるらしい人事に、文句を、
草加さんは、何を考えているのか良く解らない目で、物騒な宣告を、
それぞれ申し立てたが、

「津田くん交通やった事ないでしょ、近場だし、良い経験になる」

もし何かあっても、克己も居るんだから大丈夫だよ、と、
もっともだと思えるらしい答えを返されて、
残された2人のスーツは渋々了承した。




さんが退室するのと同時に、俺たち3人も部屋を出た。
これ以上は、いい加減仕事の邪魔になる。

「あの、さん、今日はありがとうございました」

何と言うのが礼儀であるのか、解らないままに礼を言うと、
たった30分前、ドラマの話をしていたあの笑顔は、

「うん、こちらこそ、また来てね、今度は談話も撮りたいから」

俺たちは一生、持つことの無いであろう、
出版社のIDカードを翻し、真っ白な手に真っ黒なカメラを握って、
立つ場所は、こんなにも近いのに。

やっぱり彼女は、記者だった。




その日の夜、学生舎の一室にあるテレビは、
さっそくニュースに、横浜での交通事故について速報した。
アナウンサーは、重軽症者数、被害状況などを、的確に伝えるが、

俺の頭の中に、思い出された事は、たった1つ。

ソファに座って、華奢な手でパソコンを打ちながら、
やっぱりサッカーは人気なんだね、応援しているチームとか、ある?
艶やかな髪を揺らして、俺に視線を送った、大きな瞳だった。

さんは、あの会議室に、また来るだろうか。
来て、また俺たちを、仕事の無い時に呼んでくれるだろうか。
俺たちに、否、俺に、あの瞳を、向けてくれるだろうか。

沸いた疑問を、何故か何となく、雅行と康平には言い出せなかった。




5月のカレンダーも、そろそろ残りの日数のカウントダウンを始め、
夜の空気は、初夏の涼しさに移り変わる。
衣替えをした白い制服に、さんの白いシャツを思い出した。




    




〜後書き格付けランキング〜

が、あるとしたらとりあえずここは最下層だろうな。

角松は難しい、という事に気づきましたヨーソロー。もう最後の段落とかぶっちゃけやっつけ仕事だからね。最低!害虫!
角松は難しいです。原作だったら主人公なのに。かいじも難しいとこがんばってんのかな。あの電波感。じゅ、受信しちゃうよ!
ジャンプの主人公なら簡単なのに。とりあえず、腹減った〜めしまだ?強えーやつと戦いてえ仲間だからだ!ああもう簡単だ

亀ゼリー。食ったことある?まじあれすさまじいから。漢方って書いておけば免罪符なんですかチャイナよ。くらいすさまじい
草加のビックリゲテグルメを書きたいがために、そしてカメラカメと、下らん韻を踏みたいがために、それだけのために。
つかライバル馬3匹出馬+ラストライバル馬1匹電話で出馬。これでもう当分は安定するかな、。しねえよ!脳!
滝の書き易さに甘んじて、事ある毎に発言させちゃう。だ、ダメだこんなんじゃ、もっと、もっと闘え!立ち向かえ!向かい風に!
角松と言う名の向かい風です。滝と言う名の追い風です。草加はつむじ風、津田は上昇気流かな。菊池?無風です。尾栗は乱気流。

韻踏、体言止め、隠喩、そんなもんに頼ってはいけないな、と今、害虫1匹褌締め直してる。がんば。褌、履いて無いけど。
次回、上海の竜巻が玉突き事故で漁夫の利。もうわっけわかんねーよ。芸人やめちまえ!あざーす!