キャンディ☆キャンパス
10時限目:16歳のカルテ
さすがは記者、情報が早い。
俺がその事を聞いて、目の前が真っ暗になったとき、
津田も、如月すらも、既にそれを知っていた。
さすがは記者、情報が早い。
さも雑談の1つであるかのように、
さり気なく俺に、それを伝えた草加も、
纏う空気が一瞬緊張したのは、動揺の現われだろう。
に、恋人ができた。
重要な企画会議が終わってからで良かった。
もし朝方にでも聞いていたら、
俺は、会議どころの騒ぎでは無かっただろうから。
草加がそれを、本人から聞いたのは昨日の昼らしいが、
現在、今日の昼休み、食堂で偶然一緒になった先輩記者、桃井さんは、
もう半月も前から、本人に聞いて知っていたらしい。
さすがは女性、噂が早い。と、言ってしまうと偏見だろうか。
「全く、あんたたちがもっとシャッキリしないから、
どこぞのボンボンにマーキングされんのよ」
「は・・・・、実に、仰る通りで、」
向かいの席で、本日の日替わり定食を頬張る桃井さんは、
未だ、凶報に視界を暗くしたままの俺に、
叱咤とも激励とも取り難い一言をかける。
桃井さんの言う、あんたたち、とは、即ち俺、草加と津田、如月の事だ。
一体、どこでバレたのか、それとも女の勘とでも言うやつか、
桃井さんは俺とその他が、に向ける想いを、かなり前から知っている。
「だって、いつまでも独身じゃないのよ?
女も20過ぎれば、それなりに準備し出すんだから」
「は、それは、重々承知で、」
「高校生からの関係、壊したく無いとか、
そんな青春ドラマみたいな言い訳は、もう通用しないの」
ことごとく厳しい正論を浴びせながら、桃井さんは箸を進める。
180センチを軽く超える俺の肩を、ここまで矮小化できるのは彼女くらいだ。
反論の余地も無く、俺は黙ってトレイの小鉢に手をつける。
「で、どうするの、このままだとあのボンボン、
確実に食べちゃうわよ、を」
全く、女というのは怖い。
真昼間に、それも冷静に、何て発言をする。
「一応、あたしからも智子からも、3ヶ月はキスまでで引っ張れって、
助言はしておいたけど。あの男、相当言葉巧みらしいから、どうかしら」
はどこまで桃井さんに話しているのだろうか。
智子という名は知っている、確か受付で美人と評判の同期で、
桃井さんと共に、のネットワークの中の一人だ。
「智子の寿退社で、思う所があるのは解るけど、
それにしたってあの男は無いわよ、の受身に漬け込んで」
物言いを聞くと、桃井さんはの恋人を、あまり良く思っていないのか。
俺だって、その男を決して良いようには見ていないが、
それは俺の根底にへの想いがあるからだ。
なぜ桃井さんが、そこまで否定するのか、少しだけ気になって、
その理由を問うてみた。
「そんなの決まってるじゃない、が受身のままだからよ、」
なまじあの子モテるから、今まで自分から想った事は少ないじゃない。
この歳になって、ゴールのある恋愛始めなきゃいけないのに、
なあなあの受身で押し切られたなんてだったら、そんなの笑い話だわ。
あたしはに、幸せなゴールをくぐって欲しいの。
智子みたいにね。
1時間の昼休みが終わりに近づき、俺が喫煙ブースに入った頃には、
あまり聞きたくないから、それ以上は質問しなかったのに、
桃井さんは勝手に、そのの恋人の詳細まで語ってくれて、
俺は皮肉にも、きっと誰より、そいつに関して詳しくなってしまっていた。
桃井さんは1度、車で会社まで迎えに来た、彼、ハヤミを見たらしい。
緑のジャガーが嫌味だったわ、とは桃井さんの弁だ。
ジャガーが何だ。、俺はベンツだぞ。
今時3歳児でもしないような、子供染みた対抗心を燃やしてみる。
そしてハヤミをボンボンと称していたのも、頷ける理由があった。
これは桃井さんが、から聞き出したという情報だが、
幼い頃はイギリスで過ごし、外資系大企業の社長次男坊、
有名大卒で、母方の誰それが華族出身、今は若くして重要ポスト。
俺は知らなかったが、結婚を望む女性が、喉から手を出して欲しがる履歴だそうだ。
遠くから見ただけだが、顔も悪くなかったらしい。
あんたも彫りは深いし、若いし背も高い、負けてないわよ、と、
桃井さんは付け足すように俺をフォローした。
外見において、勝とうが負けようが関係無いと思う俺は、甘いだろうか。
あれは忘れもしない、高校2年の春。
に、彼氏が出来た。
どこだか言う強豪テニス部のキャプテンで、1つ上。
テニスが何だ。チャラチャラしている。、柔道部の方が男らしいぞ。
当然だが、既にこの頃からを想っていた俺は、そう非難した。
しかしそこで初めて、の寂しそうな、悲しそうな瞳を見て。
くそ。そんな瞳で俺を見るなら、俺の気持ちに気づいてくれても良いではないか。
それでも、もどかしい想いは16歳の意地に伝えられる事無く、
16歳のの恋も、半年で幕を閉じた。
銀色のペアリングが消えた、細く華奢な左手薬指に、
ほっと胸を撫で下ろした、高校2年の初冬。
それ以来、の薬指は何度か、リングが嵌り、外れ、また嵌り。
その度に俺は、もどかしい想いをし、胸を撫で下ろし、またもどかしい。
永遠にも見えるこのループ。
想いを伝えようと思った事は、もちろん何度もあった。
しかし、いつもその時になって。
華奢な首筋が、
白い頬が、
長い睫毛が、
大きな瞳が。
俺の鼓動を乱暴に高鳴らせ、手に冷たい汗を握らせ、言葉を喉で詰まらせて。
たった3文字の、その言葉だけが、言えない。
その一言を言えぬまま、16歳のあの時と、
何ら変わらないもどかしさが、俺を襲うはずだった、今回も。
しかし、
はもう、16歳では無い。
10余年間も、何をやっているんだ俺は。
男の癖に、意気地が無い事この上ない、恥と思え。
想った女の1人や2人、落とせないでどうする。
ガキの岡惚れでもあるまいし、それでは単なる腰抜けだ。
白い煙が、空気清浄機の中に吸い込まれていく。
透明に囲まれた喫煙ブースは、鉢植えと小さな噴水の効果で、クリーンだ。
昼休みはあと10分弱。
最後の一服のためか、知った顔や知らない顔で、ブースは賑わう。
あの頃から結局、俺が変わったのは。
「・・・・煙草を吸えるようになったくらいか」
社会的な喫煙者になった今でも、
16歳の意地っ張りな俺がいた。
今日のは、横須賀の企画本部に直行直帰。
俺は、今日組みの原稿も終わらせているし、急ぎの仕事も無い。
黒革のダレスバッグに、パソコンと、原稿と、デジタルカメラを詰め込んで。
、俺はもう16歳じゃないんだからな。
午後の下り京急線は、人もまばらで、空調が涼しい。
初夏の日差しと、空の隅に広がる雲が、梅雨の訪れを匂わせた。
横須賀駅まで、あと1時間弱。
![]()
〜オッス☆メッス☆後書キッス〜
書き出しに詰まったので、とりあえず滝!とりあえずビール!あ、枝豆も追加で!夏!飲みだね!
もう酔いはデフォルトです。ビアガーデン!滝!ビールかけやっちゃいな!ハジケちゃいな!16歳らしく!
昨今の負け犬ブームに便乗。女性と結婚、みたいなフインキを匂わせたかった。そ、そしたら!差別的描写ありまくり!
あーもー怖い。フェミニズムからテロられたらどうしよう。林真理子がヤられたら夜道に注意しよう、そこ基準。月!負け犬だね!
男らしく、とか、女はね、とか、ガンガン使っちゃったけど正直コレ、ビビりまくってるからね。無境界害虫の矜持が許さないよ!
ずっと出したかった桃井さん!今回でやっと出せました!ジパの肝っ玉系アイドル!どんだけレアな分類?最高じゃねえの!
実はバツイチとか、子持ちとか、細かく設定を付けたかったけどさすがに桃井ファンからシメられるので却下。既婚でも良いさ。
そしてずっとやりたかった滝に説教。これじゃねえの!時代はこれ!クラスヘッド!萎縮しろ!煙草で!脳まで!危険だ。
桃井さんと滝のやりとりは言わずもがな、リスペクトオブ負け犬の遠吠えと、きみはペットを参考に。焦るよ!結婚に!
桃井さんの冷静な結婚観と、滝のケツ青い恋心の、温度差書くのが激しく楽しかった。人生幸せだよこんな害虫でも!
滝の部活で、また2時間くらい悩んだ。柔道部、で良かった?あれ?駄目?角松とカブっちゃってるけど。駄目?すんません。
そして滝を何線に乗せるかで、また2時間くらい悩んだ。あーもー!会社の場所早く決まってくれよ!京急線て!会社どこよ!
車で行かせれば良かったんだけど、今後の展開もあって、今滝を車に乗せたくない。どんだけワガママ?自分の首絞めてるけど!
次回、メガヌがピンクなハプニングでたわわなパッションです。もうヒューマンエラーすぎる。