キャンディ☆キャンパス

1時限目〜爽気的な彼女〜





つい先日まで満開だった桜も、今はピンク色の華やかさに代わり、
若葉の緑が活気良く色づき、春を謳歌する、4月、横須賀。

青空高く、雲も少ない、天気の良い昼休み、1230。
角松洋介学生長、至急応接室まで、と全校内のスピーカーが鳴った。

昼食を終え学生食堂で、友人2人とひとときの休息を楽しんでいた角松は、
放送を聞くなり、弾かれたように椅子から立ち上がった。
学生といえどもここは防大。教官は上官であり生徒は部下だ。
ひとたび呼び出されれば、寝ていようと風呂にいようと便所にいようと、
いの一番に駆けつけねばならない。

「行って来る」

広い学生食堂を走り抜けながら放つ捨て台詞に、

「ほんと、学生長は忙しいなあ、お疲れ」

「先に教室に行ってるからな」

雑談していた友人2人が、椅子に座ったまま、走り去る広い背中を見送った。




校長室の前に立ち、ノックの前に今一度、服装を改める。
ネクタイ、髪型、シャツ、ベルト、それぞれ曲がってないか、だらけてないか。
入校したて1年生の頃は、どんなに気をつけて完璧にしたつもりでも、
必ずどこかに見落としの穴があって、その度に腕立て伏せや前支えを繰返したが、
4年生の今日にもなれば、全てのチェックを完了させるに60秒とかからない。

そして1236。
角松は大きな拳で、プレートを使用中にずらされた応接室のドアを、静かに叩いた。




******




こんな安直な例えしか出せない自分が恥ずかしいくらいに、
それはまるで、映画のワンシーンのようだった。




「ああ、来たか角松学生長」

応接室の革張りソファに座った学校長が、俺を招き入れると、
学校長の向かいに座っていた逆光の影が、
あろうことか立ち上がって、俺を振り返った。

今までこの応接室に招かれるような関係者は、
だいたいが卒業生であったり、地方の上官であったりして、
学生の俺は立ったまま、上位の客人は座ったまま挨拶、話すのが普通だったから。
それだけでも、俺は十分に驚いていた。

だが。

逆光に慣れた目が、ゆっくりと客人に焦点を合わせた時。

こんな安直な例えしか出せない自分が恥ずかしいくらいに、
それはまるで、映画のワンシーンのようだったのだ。

俺に負けないくらいの長身だが、柔らかく華奢な体つきで直ぐに女性と解った。
ゆっくりと振り返るときに、少し長い髪が揺れて、肩と背にかかる。
袖口から覗く手首が、同じ人間とは思えぬ程、白く細い。
同じく細く白い、首の上には、驚くほど綺麗な顔が乗っていた。
陽光の光を透かす肌。長い睫毛に縁取られたガラスのような大きな両瞳。薄く色づく唇。

立ち上がり、振り返る、それだけの動作が、コマ送りに長く感じられる、存在感。
半瞬ごとに目に焼きつく、その人を見つめながら、俺の頭はある一つの単語を思い出した。
こう言うのを、綺麗、と言うのだ。

それだけしか、考えられなかった。




「こんにちは、初めまして、港談社のです」

ガラス色の瞳が俺の目を捉えて、ゆっくり微笑んで挨拶するまで、
無礼にも俺は、彼女の姿を見つめたまま、呆けていたと思う。

「が、学生長の角松洋介であります!初めてお目に掛かります!」

俺が漸くそれだけ言うと、彼女は1枚の小さな紙片を差し出した。
それは、名刺と呼ばれるものだった。そこで困った。
俺はまだ学生だし、当然といえばそれまでなのだが、
今までそんな物を貰った事が無く、それを受け取るマナーを知らない。
しかし、礼儀に五月蝿い防衛大。学生長の俺。学校長が見張っている。
とりあえず、両手でそれを受け取ったまでは良かったが、
どこにしまえば良いのか、ポケットに入れてしまって良いのか、判断がつかず、
結局、不恰好にも両手で握り締めたまま、礼をした。

それからやっと、学校長が、
今日、俺を応接室に招集した理由について、口を開いた。




******




港談社と言う有名な出版社の名は、業界に明るくない俺でも知っている。

その港談社で、この防衛大に関する企画が上がった。
防大の学生の1年に密着取材し、その青春の様々な場面を1冊の本にする。
学校側としては、大手の出版社が自衛隊の宣伝に協力するようなものだと、意気揚々。
会社側としては、意欲的な協力者の存在に良い取材、良い本ができるからと、自信満々。
4月から卒業までの1年間、幾人か適当な学生を見繕って、青春の主人公に仕立てる。

そこで、学生長である俺に、白羽の矢が立った。

角松学生、君は学生長であるし、学友も多いと聞いている。
理解していると思うが、これは我が校の強力な広報になる一大企画だ。
あと2、3人の協力学生の任命は君に任せるから。
解っているね、信用が置けて、良い取材が出来そうな、学友だよ。

そう言った学校長にすら、良い取材の出来そうな学生の何たるか、は解らない様子で、
後は記者さんから説明を受けるように、と応接室を退室させられたのが、1245。

今、俺の隣では、共に退室した・・・・サンが、
ガラスのような大きな瞳を俺に向けていた。

そこで、映画のワンシーンの中、作り物のような存在感を放っていたはずの彼女は、

「・・・・はー、緊張した!」

応接室の扉が閉まるや否や、盛大なため息をついて、小さく伸びをした。

そしてもう一度、笑顔で俺に向き直る。
頬にかかる前髪を、耳にかける仕草をしたとき、
花のような、石鹸のような、何だか良い香りが、隣に立つ彼女から香った。
ここでやっと、彼女は、映画の登場シーンに似た、架空のような美しさから、
しっかりとこの場に存在する、記者という属性を持った人物に、姿を変えた。

「いくつになっても職員室とか応接室って緊張するよね、息、つまっちゃった」

先ほど珍しく緊張していた俺を気遣ってか、または本音か、
彼女は俺に、そんなことを言って笑った。
さっきから綺麗とか美しいという単語しか思いつかなかったが、
白い歯を覗かせて笑う彼女を見て、俺の頭はまた新たな言葉を思い出す。
可愛い、というのだ。こういうのは。

「カドマツ、ヨウスケくん、どういう字を書くの?昼休みは何時まで?」

大きな瞳が俺を射抜いて問う。
なぜか俺は、またも一瞬、激しく緊張してしまった。

「ツノの角に、木の松、太平洋の洋にカイです。昼休みはヒトサン、」

そこまで言って、慌てて言い直す。

「じゅ、13時までであります」

言い直した俺に、ありがとう気遣ってくれて、と彼女は笑った。

「これから1年間、続編企画が上がればそれ以上になるけど、一緒にがんばろうね」

「は、よろしくお願い致します」

それから彼女は、5時限目の教室へ進む、俺の隣を歩きながら、
差し当たっての取材の説明と、時々話が逸れて雑談を、簡単に話していった。
背の高い俺は、普段、特に女性と話すときは、常に目線が下になるが、
背の高い彼女とは、視線の位置が平行で、顔と顔の位置も近い。
普段より何倍も近い相手への距離が、何となく恥ずかしく緊張して、
会話の合間合間に、顔が火照るのを感じた。

みっともなくも、緊張しながら聞いた彼女の説明によれば、

これから1年間は、殆ど使われていない第6会議室が、臨時記者室になるらしい。
最初の取材は近日中に行いたいので、今日の放課後にでも協力学生を紹介して欲しい。
来月の頭に1日密着の計画があるので、朝から追いかける事も許して欲しい。

そして時折脱線し、雑談に変わった彼女の話によれば、

アメリカにいた頃、軍の取材をしたことがあるが、米軍と防大では取材マナーの勝手が違うらしい。
少なくとも1年間かそれ以上は、一緒にいることになるので、できるだけ気安く話して欲しい。
横須賀の街は初めてだったが、海が好きだし、綺麗で素敵な街だと思ったらしい。

「放課後、学生さんに取材の挨拶をしたいんだけど、どこに行ったら良いかな」

取材マナーの違いとは、こういう事を指すのだろうか。
時間関係無しの召集に慣れている俺にとって、彼女の言は優しすぎるようにも感じる。

「いえ、我々がそちらに伺います」

手を煩わせる事を拒んだ俺は、
校内の立地にも慣れておきたいから歩かせて欲しいと、逆に丁重に拒み返された。




1300。
彼女と別れて、教室に入ったが、授業なんて右耳から左耳に抜ける。
取材に協力する学生なんて、頭から2人の名しか挙がっていない。
次の授業は、彼らと一緒だから、休み時間にでも今日の話をしようと、
窓の外を見上げながら、思った。

貫けるような青空に、白い鳥が滑空する、4月の午後。
これから1年間。早く過ぎ去れば良い、ずっと続けば良い。

一緒に頑張ろうねと笑った、あの笑顔を思い出して、
隣に彼女が居るわけでもないのに、何故か左半身が緊張した。




    




〜恋はドッキン☆後書き☆マジック〜

頭が悪い。いや、違うな、頭が痛い。ハイ、かねてからキャッホウ言うてた、弱脳企画です。
防大三羽逆ハー・キャンパスノート〜恋と友情の間で揺れる青春のキャンディライフ短編集〜。弱脳だ。
だってだって、原作にリンクして書いてる本編逆ハーが当初のテンション大逸れして、何かシリアスなんだもん。
と、言うことで。ホットでポップなパッションは、こっちのテンションでいきたいと思いマックス
この時間軸なら三羽も独身だし、思う存分キャーキャーできるってスンポーよ。騒ぐぜ、揺れるぜ、暴れるぜ

防大のね描写とか、例によって例の如く、カナーリテキートユルーイテンションさ。あ、痛、痛たたたた、許して。

そして今回の最大の目的は、ヒロインに対して三羽に敬語を使わせる。ビビらせる。緊張させる。まあ基本、どサドだしね。
20代前半のケツの青い若者共が、年上バリキャリ美人右往左往してくれる、これ、ドリームの本懐じゃん。
全く関係無いけど、空とか桜とか鳥とか、キラッキラした描写は、いつも鉄腕DASHのナレーションを参考にしている。
特にDASH村ね。あの文章のキラッキラ感だ。『桜の芽吹きも待ち遠しい、村の春まで、あと幾日・・・・』みたいな。

そして今回のヒロインが、読んでくださる皆様に最高に嫌われそうで今とてもネガティブな気分です。
ジパ夢君はマーメイド、銀英夢ガラ十シリーズに類を見ない、濃いキャラ設定。ネガティブです。