君はマーメイド!
act.17〜果て無の津波〜
太陽は、水平線から緩々と顔を出し、
海の夜風に涼しかった空気は、今日もまた、
南国の、茹だるような暑さに変わっていく。
欺瞞と不安、大柄な男と少年を乗せた、東進丸は、
椰子とマングローブの合間を滑り、その不思議な艦影に、接舷した。
巡洋艦にも関わらず砲門は1つだけ、
細いマストが弱々しい。
珍しい塗装も、鈍い灰色が何とも軟弱だ。
遠目に見える軍人の、不可解な服装、そして装備。
これが、未来か。
******
草加少佐は、私の驚きと混乱を、見抜いているような、
優しげでゆっくりとした口調で言葉を紡ぐ。
不思議な艦内を案内され、不思議な物々を見せ付けられ、
物資の積み替え作業の、威勢の良い声が響く、南国の海の一端、
白手袋が、握り締められた冷たい汗に湿っている。
一旦、東進丸に戻ったは良いものの、
何を報告すべきか、何を思うべきか、只の1つも纏まらず、
未だ栓を開けられぬ、アメリカの飲み物は、もうすっかりぬるくなってしまっていた。
「・・・・きさまは自分自身を知っている、
その正常さを、日本が必要とする時が必ず来る」
混乱を、諌める言葉など頂いても、今の私の耳には届かない。
やはり草加少佐は、私など、とても届かぬ、すごい人だ。
この混乱と驚きを乗り越え、今、この場で何を思う。
「この"みらい"は補給終了後おそらく、
ガダルカナル周辺海域へ向かうだろう」
読み取れぬ、深すぎるその意図に、何故か、表情を伺うのが怖くなって、
声の主に振り返る事が出来ない。
顔の解らないまま、それでも声は、淡々と続く。
「その航路上から、ヘリコプターで飛んだなら・・・・」
先刻見た、オートジャイロ、否、ヘリコプター。
つるりとした簡素で、でも頑丈そうな、その機体。
600キロ程もある航続力。航空隊から見れば、夢の数値であろう、未来の翼。
まさか、その翼で。
「・・・・あのオートジャイロでトラックへ!?」
情けなくも、つい、声を荒らげ、思わず少佐を振り向く。
どうしてか、伺う事を恐れていたその瞳は。
やはり、読み取れぬ無表情だった。
考えの見切れない、色の薄い瞳は、言葉を続ける。
「・・・・山本長官はともかく、
大艦巨砲主義の堅物共の頭を砕くのは、
百万の言葉でなく・・・・目の前の、未来だ。
橙色に染まりかける陽に、逆光になった少佐の瞳が、
焦茶色を通り越して、暗褐色に反射する。
強気に見える、その薄い微笑みは、何を示唆するものか。
草加少佐。
あなたの瞳には、一体何が見えているのですか。
未来を映し、歴史を読み知り、変わってしまったあなたの瞳。
草加少佐。
わたしには、あなたが見えない。
暖かく凪いだ、南国の海。
しかし世界と、日本と、そして私の胸中は。
戦争の、大嵐だ。
******
一瞬の沈黙を迎えてしまった、私と草加少佐の間に、
河本曹長が、先触れの伺いを持ってきた。
「大尉、先程の小柄な少年が、草加少佐に面会を求めていますが、いかが致しますか」
昨夜の電信室で、不安定なその様子を思い出す。
存在の意味すら知り得ない、不思議な少年。
ずっと疑いと不信の念で見ていたが、この未来の有様を見てしまっては、
少年の存在も、少しは確立されたもののように感じる。
そして少なからず、未来に生きる人間への興味も。
しかし、私が許可の発言をする前に、
「ああ!さんだな、津田、心配無い、信頼すべき人だ、呼べ」
先刻までの考えの読めなかった草加少佐からは、予想も出来ない、
妙に明るく、嬉しそうな言葉を、河本曹長に向かって告いだ。
珍しく楽しそうな草加少佐に、呼べ、と言われては、呼ばない訳にもいかない。
改めて私から許可の言葉を受け、甲板に下りていく河本曹長の背中を送りながら、
そういえば少年は、、と言う名である事を、今知った。
「さん、3時間ぶりだな、どうだった、艦の様子は」
5分後、手摺をしっかり握りながらラッタルを上って来た少年は、
首から銀色の、不思議な機械を提げていた。これも未来の何かなのだろうか。
暖かく微笑んで、普段の様子からは想像できない、優しい言葉をかける草加少佐は、
幾つも目下に見える少年に、敬称をつけて呼び、わざわざ近くに寄る。
生徒時代から何年も、その後を追ってきたにも関わらず、
初めて見る、草加少佐のその視線、その行動。
「たった1週間なのに、懐かしかった、片桐さんに抱きしめられたし」
そして、初めて耳にした少年の声。
何だ、まだ声変わりもしていない年頃じゃないか。
草加少佐は、何故こんな幼い少年を、殊更気にかけるのか。
「抱きしめ・・・・?何だ、どういう意味だ?」
草加少佐が、拗ねる、に似た表情をする。
これも初めて見た。拗ねる!驚くべき事だ。
「や、変な意味じゃなく、よく生きて帰った、心配してたって」
「何だ、こちらが心配した・・・・そうか、そういう意味か」
「そして早速仕事、東進丸撮り、できれば案内が頂きたいんだけど」
「ああ、それは私でなく津田だな、おい、津田、」
話題がこちらに向いたらしく、やっと草加少佐は私を振り向いた。
私を呼ぶその声と、私を見るその目は、やはりいつもとどこか違う。
「・・・・は、」
大いに疑問を抱えて、とりあえず返事だけしか出来なかった私に、
草加少佐は思い出したように、言葉を続けた。
「・・・・そういえば、何の紹介も無かったな、しておこう、」
記者のさんだ。
私もあちらの艦では世話になった。
階級は無いが士官扱いだそうだ。敬称を忘れるな。
きさまも何かあれば、彼女を頼ると良い。
あまりに自然に言うものだから、聞き流してしまう所だった。
・・・・彼女!?
「おん、な・・・・!?」
驚いて一瞬、礼儀を忘れて、大変失礼な態度をとってしまった。
確かに未来の艦には女もいた。女の航空隊も珍しくは無いらしい。
だが、しかし、こんな若い、女が。
「ごめんなさい、偽るべきでは無かったんですけど、色々危険だから、」
少年、否、彼女は、謝罪の言葉を述べながら、目深に被った帽子を取る。
帽子からこぼれた、不思議な色の髪。
長い睫毛に囲まれた、大きな瞳。
海では目立つ、白い肌。彩どられた唇。
初めて正面から見た、その容貌。
ずっと少年だと思わせておいてくれれば良かったのに。
急に、心臓が、騒ぎ出すのだから。
「・・・・全く、きさまはいつも、女となると、弱い」
草加少佐が私に近づき、彼女、さんに聞こえぬような小声で話す。
女などに、動揺を悟られては情けない。
私も小声で反論を返した。
「しょ、少佐もお人が悪い、何もこんな所で、」
「何だ、私を責めるのか?心外だな、部下の弱点を克服しようと、思い遣ってだ」
「べ、別に弱点などでは・・・・!」
女、さんに、怪しまれてはいないだろうか。
こんな所で、あからさまに密談などして。
私の心配など気にも留めず、草加少佐は、ここから普通の声量に切り替えた。
半瞬、何を言うか背筋が凍ったが、続く言葉を聞いて、安堵する。
きっと彼女には、私たちの話の意味は、1つも解らないだろう。
「きさまは漸く、エムのエムケー将校様になったのに、女が苦手とばかりに、
エスプレーすらせんではないか。ケプガンが案じていたぞ、あれでは一生マリれんと」
「お言葉ですが!それを言うならノープレーは少佐も同じではありませんか」
「私がエスハウに行かないのは、単に好みが居ないからだ、きさまと一緒にするな」
「ですが!気遣いは無用です、ダマヘル呼ばわり結構、生涯チョンガー覚悟の上です!」
「軍人がいらん覚悟をするな、暫く見ぬ間に、上官の厚意も受け取れぬほど、器が小さくなったのか?
それとも、どんな宜しい心構えで、私に不関旗を揚げるつもりだ?」
「そ、そんなつもりは・・・・」
「何もこの場でケーエー候補を作れと言っているのではない、
ウー嫌いとあっては、ペンダウンもままならん、要は徐々に慣れろと言っているのだ」
「!・・・・どこから、その話を、」
「任官祝いでのブックの敗戦談が、私の耳に入らぬとでも思ったのか?手荒い楽観だな」
草加少佐は私を、勝ち誇った視線で一瞥してから、打って変わって、
手摺際で、私たちの会話に不思議そうな顔をしているさんに、優しい視線で向き直った。
「すまないさん、待たせたな、津田が案内してくれるそうだから、艦内を回ると良い」
今の会話の、一体どこが案内の了承だ。
しかし、その言葉を素直に信じたさんは、
大きな瞳を私に向けて、明るい声で。
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
別に、単なる若手の記者ではないか。
女と意識しなければ良い。
上陸せぬ内は、何があろうとお国のための任務中だ。
艦を案内して、雑談を交わす。
たったそれだけに、こうも動揺するとは、
軍人として、否、男として情けないではないか。
しかし、交わった視線に、跳ね上がる鼓動は。
「は!・・・・よ、宜しくお願いします、津田、一馬であります」
継いだ言葉は、噛み噛みだった。
成り行きで、艦を案内する事になってしまったが、仕方ない。
とりあえず、まずは甲板に下りようと、さんを促した私に、
草加少佐はすれ違いざま、ある言葉を投げかけた。
それも、さんにも聞こえるであろう、全く音量を落とさぬ声で。
「アフターフィールドマウンテン、だな、58期の、石部金吉!」
「な、・・・・」
彼女にこの意味が、解らない事を、切に願う。
南洋の夕陽は、今と、未来の、2つの艦を、等しく照らす。
マングローブの木漏れ日に見える、鮮やかな橙色に染まった水平線が、
明日の快晴を予告するように、ゆっくりと沈んで行った。
海は凪。
私の心と、反対に。
〜私のドリ資料集めは、このためにあった!〜
出・し・切・っ・た!今、最高のやり遂げた感で面舵いっぱい!言うなれば2塁3塁回ってホームでハイタッチの松井です!やった!
これ!これだよ!やりたっかったのは!今テンションぶちアゲ!今ならポン酒ピッチャーで一気オールできる!誰か!携帯鳴らせ!
F作業だの、エト袋だの、カポックだの!生ぬるいわあぁぁぁ!!!!専門用語ならぬ、隠語!これじゃん!時代これじゃん!
あーあーあーあー!楽しすぎた!今まじハンッパねえ!楽しくてゲロ吐きそう!どんだけ歪んだ愛憎模様!ひん曲がってる!脳!
何となく、解りやすそうな隠語ばかり取り揃えてみましたが如何ですかマダーム。気分は宝石商。隠語!ダイヤモンドだよ!
前作が、無意味シリアス散文で、恋のコの字もナッシンな、まさにミッシン、寂しかったよ!ドリ!恋してなんぼじゃねえの!
で、今回はケツに恋のロケットブースターがギアハイトップで、どピンクなパッション!ミッション!津田撃墜しろ!アイサー!
撃墜までは至らなかったものの、ピンクの泥沼に片足くらいは絡め取られてくれたかな。害虫!泥水一気しろ!アイサー!
すげえ僭越な事言って良い?まじ、怒るなって、頼むから、本気、僭越だから、解ってっから!
このクサレサイト、もといウェブの産廃処理場。ドリのテーマ色は「どピンク」でありたいと思っている。あ、まじ!ごめんって!僭越!
ピンクなチークでパッション!ミッションはミッシン!涙も青春だよ!頑張れワカゾー!三十路越えても!いい加減、韻踏みに頼るな。
次回、お待たせしましたーメガヌのお客様ー、ご注文は以上でお揃いでしょうか、あ、すみませんデザートのバナヌですね、ただ今!